あたたかい亡霊たちのカンバス
ホロウ・シカエルボク
きみは眠りすらうしなって
エイギュイユ・クルーズの亡霊たちのさなか
みみもとできこえる音に名前をつけようとして
自分の大切なものの名前をわすれる
密度のうすい雨が
決め手を欠いたかなしみのように降りつづく夜だ
内側に干したコートの
ポケットのレシートの皺みたいな夜だ
アンチェインド・メロディ、難攻不落の旋律は
きみをあっという間に怠惰な快楽の竜巻に叩きこむ
ばらまかれた音符は
きみの偏った頭脳のなかで色素の悪い花のように意味もなく咲くだろう
トップライトのあかりの中にまぎれこむ古い景色
名を思い出せない
少女たちの不確かなワルツの足さばき
床のすみに残った爪のあとが
ねえ
ギリギリと
ギリギリと
泣き声を
あげているんだ
破れたソファーにかくれたネズミ、出口を忘れて腐敗するんだ
きみはいつか絶望的な朝におちいるだろう、でも恐れることはない
それはたまたま解明された一日というだけのことなのだから
誰かの手ちがいで垣間見えた
隠された絵画の色づかいの様なものなのだから