来ない
AB(なかほど)



来ない

夢の中のお話


*

大工の父親と過保護な母親のもとで
昭和のもやしっことして育ち
筋骨隆々な親父とくらべ
まるでビッケのような様子で
いや ビッケから勇気と知恵を除いたような
ただ物語の世界に入り込んで
じっと


**

こんなふうに
いつでも待っているから

忘れたころに

たぶん

って言いながら


***

桜 咲いた
カンナが咲いた
紅葉の葉が
淡雪に散って
溶けてゆくのを
見ていた


来ないね

うん 来ないね

明日は来るのかな

たぶん ね

もう
眠いね


****

ぜんぶ

ぜんぶ夢の中のお話


大工の息子はそれでも
なんとかぜん息もなおして
設計の勉強をして
父の横で幾ばくかの仕事ができた

何を待っていたのかも
忘れたような気がするが
いつか夢から覚めるときに
思いだすのかもしれない


それは
まだ来ない

まだ来なくてもいい





即興ゴルコンダより



自由詩 来ない Copyright AB(なかほど) 2011-10-12 12:13:02
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