来ない
AB(なかほど)
来ない
夢の中のお話
*
大工の父親と過保護な母親のもとで
昭和のもやしっことして育ち
筋骨隆々な親父とくらべ
まるでビッケのような様子で
いや ビッケから勇気と知恵を除いたような
ただ物語の世界に入り込んで
じっと
**
こんなふうに
いつでも待っているから
忘れたころに
たぶん
って言いながら
***
桜 咲いた
カンナが咲いた
紅葉の葉が
淡雪に散って
溶けてゆくのを
見ていた
来ないね
うん 来ないね
明日は来るのかな
たぶん ね
もう
眠いね
****
ぜんぶ
ぜんぶ夢の中のお話
大工の息子はそれでも
なんとかぜん息もなおして
設計の勉強をして
父の横で幾ばくかの仕事ができた
何を待っていたのかも
忘れたような気がするが
いつか夢から覚めるときに
思いだすのかもしれない
それは
まだ来ない
まだ来なくてもいい
即興ゴルコンダより