夜明けを待つ
相差 遠波

忘れてしまえとある人は言う
そう念ずるたびに思い出す
忘れなくてもいいとまたある人が言う
思い出すたびにずっと涙する

ずっと心は揺らぎ続けるだろう
治らない傷は抱えていくしかない
鏡をのぞきこめば
そこには泣き濡れた女が一人居るだけ
化粧をして勝気な顔を作っても
美しかった思い出がすぐにそれを崩す

 ああ でもそれが

命の証なのだろう
あなたの人生の記録なのだろう

忘れてしまえとある人は言う
そう念ずるたびに思い出す
忘れなくてもいいとまたある人が言う
思い出すたびにずっと涙する

君よ どうか
忘れてもいい
忘れなくてもいい
ただ見失わないで
鏡にその人が一緒に映ってなくても
あなたのその涙は映っている
その鏡像の向こう側に居る君の
命の証だけは失わないように

夜明けに来る光を
余さず拾う鏡の向うを


自由詩 夜明けを待つ Copyright 相差 遠波 2011-10-11 10:22:40
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