秋が来おった
一 二

「もう秋だ」
誰に言うでもなく
ただ、ポツリ、一人呟く

風がだんだん冷たくなり
空気が澄んで空が高くなるのが
誰にも言われずにわかる


スーパーでレジ打ちのバイトをしているが
クーラーの要らなくなった
食品の陳列棚の冷蔵の風がとても寒い

夕方は夫婦やカップルが
イチャイチャしながら買い物をする
俺は「こう、なれない」
と鬱になる

夜は気だるそうな、おじさんが
半額シールの着いた惣菜や弁当を買う
俺は「仲間だ」と思い
他愛の無い世間話を切り出す
何人かと顔見知りになったが
名前は知らない


バイトを終え
家路を急げば、
まだ冬は遠いというのに
何故か夜風が身に染みる

バイト続きで疲れた体
明るい家々の窓からは時折笑い声が聞こえ
奥さんが
帰ってきた子供や旦那さんに出したのであろう
手料理の良い匂いがする

変に凝ったものではなく
栄養バランスと健康を考えて作ったのだろう
羨ましい

俺は、バイト先で買った
半額シールに更に半額シールの張られた弁当の
ラップを破り
食うだけ
独りで

こんな毎日が続く
この秋を乗り切っても
次にやってくるのは冬

恋人に
配偶者に
親に
子供に
とにかく愛する人のために
贈り物を選ぶ人々を尻目に
一緒に手を繋いで歩く人を尻目に
俺は自分の欲望を満たすためだけの買い物をする

「俺は自分の金は自分で全部使えるんだ
それが嬉しいんだ」

泣き言を自分に言い聞かせる



愛する人のために身を削るのは
利己的に生きるより
ずっと幸せなのだということに

愛情を惜しみなく周りに与えれば
空いた部分は幸せで満たされる

愛情を自分だけに向けて疑い深く生きていれば
大切に抱えているその愛情が
価値の無いものへと変質していく



己が生きていく上で約束したことを
俺は忘れてしまっている

それを死ぬまで忘れ続けるなら
俺は幸せにはなれないと気付いた


自由詩 秋が来おった Copyright 一 二 2011-10-11 01:37:50
notebook Home