潮の音(ね)
凪 ちひろ

海よりも深い青さで恋をして
夕日よりも赤い情熱で愛した
波間を漂う流木に この身を重ねるのは
今もあなたが 愛しいからでしょうか

かもめが水面近くを飛んでいき
やがて白い月が
東の空から 高く 高く 昇っていきます
わたしははだしになった足を
冷たい潮水にぴちゃぴちゃひたしながら
思い出の曲を 口ずさみました

この海の向こうで あなたがわたしの歌をきいている
そんな空想をしながら
後悔も 怒りも 悲しみも 水に流しました



疲れきって ほてっていた足は すっかり冷えて
明日(あした)からは元気に歩けるでしょう

やわらかなタオルハンカチで 水滴をふいて
水色の綿のくつ下と はき古したスニーカーをはいて
テトラポットの道を戻り
海岸沿いに止めた 赤いフィットに乗り込む

そうして 後ろを振り向かずに アクセルを踏めば
真っさらな月の光が わたしの進む道を明るく照らしてくれました


自由詩 潮の音(ね) Copyright 凪 ちひろ 2011-10-10 23:48:07
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