私へのコラージュ
草野春心



   悲しみを一匹の鼠と錯覚していた正午に、
  石から石へと移ってゆく影こそが私なので
  あった。落葉が、古くなってしまった楽譜
  のようにぺらぺらと捲れてゆくときに、ゾ
  ウリムシより微小なのも私なのであった。
  追う視線としての謙虚な家屋でさえも私。
  扉は扉に開き、動く動きは動きをやめない。



   過去から落ちた無数の、丸く透明な柘榴。
  それらが驟雨となってあなたの細い肩へと
  注ぐとき、自らの静脈を流れる赤さについ
  て思索を巡らせている間抜けは私ではない。
  低く重い金属音を響かせつつ、あなたが暗
  闇へ一歩目を踏み出すとき、無意識に軽ん
  じられる思考過程があるのを知るがいい。



   五丁目の片隅に建つ、煙突のついた昔な
  がらの工場。高速で運動しているベルトコ
  ンベアを私は逆走している。私と、それか
  ら私と、その他大勢の私……その光景を克
  明に記録した映像が昨夜未明ささやかなニ
  ュースとなり、九番目のあなたが教えてく
  れる。三十二番目の私に、加工済の音声で。



   かつて愛した一枚のレコードを彼と呼び、
  水面に写った得体の知れぬ影たちを彼らと
  呼び、あなたのことを彼女と呼ぶとき、夢
  の中の無限廊下で苛まれているのが私であ
  る。私はしばし立ち尽くし、絶えず色を変
  えてゆくその殺風景を歩いてゆくのだが、
  足と床は永遠に接触することはないだろう。






自由詩 私へのコラージュ Copyright 草野春心 2011-10-08 22:35:55
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コラージュ×4!