雨音
nonya
冷たい雨粒が
傘をノックする
居留守をつかう僕を
執拗にノックし続ける
開けてはいけない
部屋を覗かせてはいけない
開けたら最後
あいつはズカズカと
上がり込んできて
胸の奥の冷凍庫から
霜だらけの記憶を
勝手に探し出して
片っ端からチンしてしまうから
開けてはいけない
簡単に許してはいけない
解凍された記憶は
濡れた尻尾の
みすぼらしい匂いがするから
決して薄まらない
いつかの夕焼けの
しょっぱい味がするから
開けてはいけない
懐かしいなんて思っちゃいけない
冷たい雨粒は
傘をノックし続けて
歩く速度で逃げようとする部屋を
的確に追い詰める
長い信号待ちに
舌打ちしてから
僕はうっすらとドアを開けて
雨粒の用件を聞くけれど
ドアチェーンは
何が何でも外さない