けつえき
雛鳥むく

詩情は朽ち木のように
川を裁断し
それを橋と呼んで
水を渡る
わたしたちの足は
いつまでも渇いたまま


濡れた手のひらのうえ
小さな風車が幾つも咲いて
わたしたちの語彙は
かなしいほど凪いでいるのに
かたかたとせわしく鳴いた
数えきれないほどの文明が
ほろびていったというのに
ここには筆記もなく
ただ
比喩として
羊皮紙が燃えてゆくのを
ていねいに数えつづけた
単位すら知らずに


咬傷は
あらゆる水のうえを
たおやかに泳ぎまわり
訃報の訃報だけが
凛、と
木霊して


わたしたちの
脆弱な王国は
あの朝
空から伸びる
巨大な手に捻り潰され
あらゆる警備は
水と共に流された


(切り落とされたはずの耳元で
かたかた

風車が鳴いている、)


振り仮名も
まるで隠喩のように
せつなく降り積もった
いくつもの辞書を
照らし合わせた差異が
かたかた

風車を鳴らして
わたし、たち
最低限の警備


「遺言、
の宛先をください、
それでようやく
赦される気がするので、」


それから
文明ごっこをつづけた
あの朝
詩情が死んだ
川のみぎわで
針金を伝う水滴の
行方を追うわたし(たち)
流れに沿って
散乱する手指
あらゆる凪いだ手のひらのうえ
かたかた

風車が鳴いている
(という
あざやかな隠喩を、)
 
 
 


自由詩 けつえき Copyright 雛鳥むく 2011-10-05 23:50:00
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