復讐
オノ
閑散とした枯野の真ん中にある無機質な刑務所の中で、
男は日々怨みの情念を燃やしながらトレーニングに励んでいる。
男が生きている理由はたったひとつ。
自分を裏切った男、自分から全てを奪ったあの男への復讐を果たすこと。
その使命を・・・今やたった一つの目標を果たすため、
男は意識のある時間を全てその計画と肉体の鍛錬のために費やした。
つらい服役生活の合間、男の想像のなかでその宿敵は、
ある時は後ろからナイフで刺され、ある時は爆発に巻き込まれて四散し、
またある時は高所から突き落とされ、美しい余韻を残しながら絶命するのだった。
男は時にその想像によって薄暗く微笑するのが不気味だったが・・・
それを除いてはつとめて善くふるまい、そのために模範囚として
少しの刑期の短縮を勝ち取ったほどだった。
全ては復讐のために。
そして釈放の日・・・
たしか雪が降っていた。
看守がなにかありきたりなことを言って、それに一礼した男は
帽子を目深に被りなおして風の中を歩き始めた。
あの男の居場所は分かっている。
このような不穏な天候の休日、あの男のいる場所は・・・
男の中には確信めいた想定があった。
長年、行動を共にした間柄ならではの直感であった。
灰色の空の下、またそれを助長するように陰気な灰色の公園。
その池のほとりのベンチに、男は座っていた。
それから読んでいた新聞をバケツに捨て、またどこかへ
行こうと立ち上がった。
宿敵が自分に背を向けた瞬間、男は素早く、しかし音もなく
彼にすり寄った。
完璧な接近だった。ポケットのナイフ―知人に頼んで私物の中に紛れ込ませて
おいた―を背中に突き立てれば、男は幾多の想像の中でそうしたように、
苦しいうめき声をあげて地に伏しただろう。
ただ、男は間違えて宿敵を抱きしめてしまったのだった。