見つめるひと
恋月 ぴの
あきらめてみる
たとえばわたしでいることをあきらめてみる
すると亡くなった母のこととか
ひとりぼっちの寂しさとか
なんだかふぅっと身軽になれて
お線香のくゆりは相変わらず苦手だけど
摘んできた野菊を遺影に手向け
四十九日はもうすぐで
納骨の手はずとか整えないといけないのだけど
あいかわらずの不甲斐なさ
そろそろ一本立ちしないとね
なんて
いきがってはみたものの
足元を整えなおすことさえままならずに
※
あきらめてみる
たとえば慕い続けることをあきらめてみる
すると好きだったあの人のこととか
手首に残る自傷のあととか
なんだかふぅっと身軽になれて
あいかわらず通りすがりの男の人に彼の面影追い求めたりする
そんなわたし自身も可愛く思えてきた
そろそろ新しい恋のはじまりかな
でもね
彼以外の男の人とか
まだまだ踏ん切りなんてつかないけれど
※
あきらめてみる
たとえば生きることをあきらめてみる
すると生きる苦しさとか
死に切れないもどかしさとか
なんだかふぅっと身軽になれて
悲しくなるたびに死ぬことばかり考えてた
わたし自身がばからしく思えてしまう
それでも時には
死に切れなかったのは意気地なしだからとか思ってみたりして
旅にでも出てみようかな
見知らぬ土地で
見知らぬ誰かになれるのなら
ただただ秋の風に吹かれて
あきらめた先にあるもの見つめていたい