黄昏ナツの一生
佐々木妖精
ニンゲンは幸せだ
猛暑の代名詞になることもなく
熱い息をイライラ吐き
しばしば彼らを罵倒する
(やつらは実に暑苦しい
いっそ冬に産まれてくれればいいものを)
ニンゲンは幸せだ
数年間 蓄えた滋養を使い果たし
力尽きた青白い亡骸を 幾度も観測出来る
この世のものとは思えない蒼白の彼らは
物静かな少年の面影だけをのこして
とりわけニンゲンの雄は のんびりしている
法師ですら ツクツクしたくてたまらないというのに
こちらときたら 産まれてこの方なきはしたが
ぐんにゃりしぼんだ抜け殻を
ぼんやり眺めていたりする
(我々はなぜ鳴くのか)
ところで僕たちは
ひっそりと だが確実にいる雌について
もう少し考えてもよいと思うんだ
例えばそう
舞い落ちる木の葉をよそに
凛とおすまし高嶺でひとり
黄昏ナツが遙か彼方
お高くとまっていて―
彼女の落下を僕は知らない
ただ音もなく抜け落ちたであろう彼女の痕跡が
落ち葉に紛れ眠っている