死霊の夜
salco

ゆうべ
三時を過ぎた頃
辻々を葬列が通ったのを
お聞きになりましたか
気の早い病葉がかさかさと
先導僧の笏杖に道を払われ
仕舞い残しの風鈴がひと時
うるさく鳴らされたのを?

西洋でも万聖節の前に
ちょうどこんな風が吹くのですよ
いえ、あなたには
風としか見えぬでしょうけれども
お気づきでしょう
陰暦を引いていた私どもの国では
彼岸会後のこの月を
神無月と呼び習わしました

死者は
いや、霊は
ああして己が生滅を嘆くようでも
寂しい、悲しいのではありません
退屈しているのですよ
洋を問わず
不当極まる退屈をかこっている
年さえ取れぬ退屈を

御覧なさい
じきここを通る新聞配達
闇に目を凝らすでもなくスクーターで
見慣れた道を流しながら今日はふと
うなじを撫でた風に鳥肌が立つ
指の形を感じたもので
肉の朽ちた捺印を

こんな夜は
今生に日の浅い赤ん坊に
奥座敷で独り寝の年寄りに
気をつけておやんなさい
冬が来るきざはしの
これは渺茫びょうぼうの風ではない
報せではない

死者は
いや、霊は退屈なのですよ
それで百年も千年も妬んでいる
生に浴している者を
在って在るを有する者を
小さな燈芯やか細い焔は
連中の腐った息でも摘めるのでね


自由詩 死霊の夜 Copyright salco 2011-10-01 22:56:43
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