佐野元春
はだいろ


今夜、どうしても、
佐野元春が見たい、
と引きこもりの友達が言った
何年も歯医者に行けないので、
ぐらぐらになった奥歯をかみしめて

中学生のころは、
ぶきっちょなぼくの代わりに、
技術の時間に、はんだづけをやってくれた友達。
お父さんは学校の先生で、
いもうとさんは、アメリカ人と結婚した。
何度か、
車の工場へ出稼ぎで働きに行ったけれど、
今は、
もう何年も、引きこもって暮らしている。

今夜、どうしても、
佐野元春が見たい。
その気持ちが、伝わらないでもない。
でも、
佐野元春は、今日は日本のどこでも、
ライブはやっていない。
探し出して、どんなに、友達が、
あなたの歌を聴きたいかを説明できたら、
きっと、
佐野元春は、たったひとりの友達のためだけに、
一晩中でも歌ってくれるだろう。

だけど、
今夜、佐野元春に、
コンタクトを取るのは、とてもとても難しいだろう。
ぼくにはその方法がわからない。
もし、
この詩を、あなたがどこかのカフェででも読んでくれたら、
ぜひコンタクトしてほしいと思う。
友達は、
あなたの歌が、
どうしても今夜、生で聴きたいと、言っています。
ぐらぐらの奥歯をかみしめて。








自由詩 佐野元春 Copyright はだいろ 2011-10-01 21:38:02
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