花火
つむ

十月頭の、すこし遅い花火大会
人類の都合なんて知ったことじゃないだろうけど
心配されていた天候もなんとか持ちこたえ
おくれて辿り着いた夜空には
縁日で売られている玩具みたいな
いろとりどりの光が 咲き誇っていた
地表には僕らが一晩を座り込んで
あ、ライムグリーンだね なんて話し始める
今度はマリーゴールド
そういえば今年の夏は
向日葵を見にゆかなかったね

ほら ツートンカラー
カラフルな太極図みたいだって
ちょっと格好つけて言ってみる
ほんとは、あ、モンスターボールって
呟きたかったんだけど。
続く打ち上げ花火の合間に僕は携帯を取り出して
君には見せられない詩をこっそりメモし
君は無邪気に
拍手の群れに加わっていた

渋滞に苛立つ運転手の列と
あたり一面、たんぼに撒かれた牛糞の臭い
遅れて降りそそぐ花火玉のクラフト紙の
ぶ厚い切れ端はまだ少し熱い気がするね
まぶたを打たれ、痛くもないのに大袈裟に倒れるふりをしたり
墨色の夜空だけ ばかばかしい程ぽっかりと広かった
家の庭では僕の犬が炸裂音と対峙しているかもしれず
このごろは難儀なことばかりで
僕も明日に向かって叫ばなきゃいけないこと たくさんあって

再開した花火はやっぱり豪勢だ
音も凄いね、君は
耳を抑える真似して笑い
僕はひかりが消え去ったあとに
ゆっくり崩れながら流されてゆく白い煙をみていた

宇宙は今日も静かなんだろう
今日なんて概念もないくらい。
広がる黒土みたいにそれは無垢な静けさだろうか
あいにくと僕らは轟音のこちら側に生きてるから
火薬と肥料の臭いと
かすめる渋滞と降りそそぐ花火玉の破片のなかで
こっそり手を握り合って夜空の重みに耐えていて
ただ 次々からっぽに戻される夜にはそれでも
新しい一筋の閃光が
僕らの息をあつめながら真っすぐに真っすぐに昇ってゆく

興奮冷めやらぬ人々が帰途につくころ
妙にしみじみと
きれいだったねって君は言い
僕はなぜだか細い息しかできずに
 明日も犬に水をやるのかな
 明後日はちゃんと食事をするのかな
 また来年 君とここへ来られるだろうか
 きれいなこと、ばかりじゃないけど

細く細く 音もなく飛んでゆく白い彗星

うん きれいだったね

君は満足げに大きく頷いて
最後の 開店祝いの丸いやつに似てたよね なんて言うから
僕は思わずふきだしていた

上がれ上がれ、祝賀の花火
電離圏の天井までも
仮定の夜空をつんざくように
大輪の、大輪の明日を咲かせて!


自由詩 花火 Copyright つむ 2011-10-01 20:45:44
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