運動へのコラージュ
草野春心



  木星から君が
  地球にむかって
  バッタの死骸を投げた頃
  僕の目のまえで
  自販機がコカ・コーラを吐きだした
  ヨーヨーの眼
  カエルの眼
  その長く透明な卵の眼
  回転する、
  ヨーヨーの眼
  スパークする、幾千枚の
  アゲハチョウの羽の眼
  黒いバラの花弁の眼
  木星から君が
  地球にむかって
  音符をひとつひとつ落下させる頃
  赤子の口は開かれている
  僕の手は開かれている
  ウッドスピーカーの震動する眼
  沸騰するケトルに隠された眼
  旋律を、
  ひとつひとつ咀嚼している
  眼
  世界の眼
  木星から
  君は
  素っ裸で君は
  ケタケタと笑いながら君は
  法則にしたがって
  手放し
  投げ
  ほうる
  巨大で
  矮小な
  絶対零度の
  時間の眼

  *

   蝉という名の運動を、夏の大地が反
  芻している。繰り返す、繰り返す、と
  自らに聞かせつつ。わたしの両脚は、
  残像の手によって背を押され、歩行を
  獲得させられつつ、ある、ない、ある、
  ない、ある、を繰り返しつつ、聞きつ
  つ、聞かせつつ。夏が四肢となり、四
  肢が水となり、水が存在となり、扱わ
  れることを拒みつつ、ある、ない、あ
  る、ない、を回転しつつ、を、回転し
  つつ、わたしはここで修辞されている、
  を問い責められつつ、ある、ない、あ

  *

   その暫定的な果実は口をつぐんでい
  るものの、未だ見ぬ速度を児のように
  孕んでいる。きみの舌でほとばしるこ
  とも、白い指の谷間に付着し、舐めと
  られることも、こうした総体としてわ
  たしに注がれることも、既に予感とし
  て結実している。
   その暫定的な果実は口をつぐんでい
  るものの、棄ててきた速度を親のよう
  に弔っている。《放られる》を想起し、
  《落下する》を辿り、《成長する》を
  遡行し、その暫定的な果実はひとつの
  祷りである。叙述するわたしの視線は、
  かなしみという形の周囲を、亡霊のご
  とくさまよっている。

  *

 「渚」

  渚から
  うまれた
  いくつもの囁きが
  連なりをかたちづくるように
  きみを
  愛していたし
  望んでいたし
  夢見ていたし
  けれども
  だからこそ
  仕方ないことだね
  逝ってしまうということは
  波動がふいに止まり
  ふたたび
  動きはじめるということは
  連なりへ奪われてゆくように
  ぼくたちの囁きが
  卵まで還り
  渚へ

 「中空」

  空から        /水平で
  懸命に        /慈愛をこめて
  うたわれたものたちを /あやめられたものたちを
  そっとはこぶように  /さかのぼるように
  この水平を見おろすのだ/この空を見あげるのだ






自由詩 運動へのコラージュ Copyright 草野春心 2011-10-01 19:11:34
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