波は揺りかご
さすらいのまーつん
この波は揺りかご
君を包み込み 夢の中で休ませる
僕は岸辺に立ち
なすすべもなく垂らした指に 潮風は冷たい
波を泡立てながら 光と影を掻き混ぜるモンスーン
全てを飲み込み なお満たされることのない 母なる海洋の餓え
飛び疲れた天使が 羽を休めに舞い降りた
君のくたびれた白い翼は
波間に沈んだ難破船の 折れたマストのようだ
肩からさげた小さなポシェット
そこに詰めこんだ幸せの種は
どこにも蒔かれないまま
君の目は 茜色に染まった波頭の動きを
あてもなく 追い続けている
悲しみは鎖となって 人々を縛っていた
光を失った彼らの目は まるで
崖の上の彫刻が水平線に向ける 盲目の双眸
安らげるのは 夢の寝床にもぐりこむときだけ
その姿は 砂浜の下で眠る石のよう
頭上の砂を踏みしめる足音が 静かに目覚めを呼んでいる
この波は揺りかご
神が優しく動かして
君を新たに 創りなおす
いつの日か君は 波のむこうから帰ってくる
その肌から水を垂らして
君は髪を一振りして 世界を見回すだろう