I CAN'T TAKE IT NO MORE
ホロウ・シカエルボク
「君は自分の脳漿をデザインするんだ」と68歳のミック・ジャガーが新しいチームと共にずっと俺に話しかけている。月曜日の覚醒は雨。追悼の様なぽつぽつとした雨だ。午後に一度上がると思ったのにまた降ってきた。レインコートの中にいると自分がすばしこいだけの虫になったみたいな気がする。日常なんてものに幸せを探すのは愚の骨頂だ。そんな理屈に屈していたらこの世で一番幸せなのは牧場の牛や豚ということになりかねない。脳味噌が石膏で固められてる気がする。秋は凍えさせたかと思ったら汗をかかせる。俺は一般的な人間ではない。別にこれは自惚れではないし、かと言って不必要な自虐でもない。俺は一般的な人間ではない。だけどそれをシンドロームと呼ぶ気もない。それは割り当てられた配色の様なものだ。朝から何杯も偽物のコーヒーを胃袋に注ぎ込む。化合物的なカフェインは頭痛とプラスティックな夢を脳内で再生する。「君は君の脳漿をデザインするんだ」26度目の幻聴の後左目に近い毛細血管がひとつ死滅した音を聞いた。言葉面をなぞることしか能のない勤勉だが無能なヤツが俺のことを改竄している。ハロー・スペースボーイ、君には君の星があるだろう。9月の午後の太陽の揺らぎ、強いけど冷たい世界で波紋のように広がったビジョン。上手く繋がらない音符は片っ端から地に落ちて灰になる。風は構築されない旋律を無にする。あれは誰かもっとましな可能性の中で小奇麗なものに形を変えるのだろう。切り立った崖の上の様なマインド、繰り返す光と雨のコントラストの中で摩耗した装置になる。オクターブ上のキーが第3の目を貫くとき俺の魂はほんの少し風通しが良くなるだろう。雨の止み時には誤差がある。人の病み時に誤差があるみたいに。保証されたベッドの寝心地はどうだ?ひとりでに剥がれ落ちる日捲りの様な塩梅だ、ボーダーラインはいったいどこに引かれている、安いカフェインの頭痛、訳のない睡魔と一番長生きのロック・シンガーのブレスのタイミング。アクリルで出来たボックスの中でサルガッソ海を漂っているような気分。水底の藻なんかのせいじゃない、存在を正でも負でもないゼロの地点へ押しやってしまうのは。淀んだ海原の向うで俺は見るだろう、消失したものたちで出来たこの世のものならざるモニュメントを。最後の最後まで記された航海日誌の訳の判らない模様を。気化しない存在の在り方、気化しない記憶の残され方、安いカフェインが植え付けたままの頭痛。俺の叫び声はいつも頭蓋の内側だけで木霊する。認めさせるための狂気なんかひとつも持ち合わせちゃいない。控え目な黒雲の向うになにがあるか見えるだろう、あれは適当に光源を抑えた太陽だ。部屋の片隅で生命の交換を目論んでいる蜘蛛、白い糸は呼吸のように撓む、揺れているのは俺か、お前か?赤い火を見たんだ、あの時一度、腐敗した視界の中で…それがなんのサインだったのか思い出せない。俺もある種の生命の交換を求められているのかもしれない、保証されたベッドの寝心地はどうだい、清潔に過ぎるシーツになんか俺は一生横たわるつもりはないぜ、調整されることは死にうんと近づくことだ。俺は自分の配列を変えない。それはそのまま俺の命題なのだから。窓の外を横切る黒い鴉のなお黒い目玉。あいつはきっとなにもかもを見たくてそんな目玉を植え込んだのだ。あいつの羽はまるで行程を必要としない絵具のようだ、一羽で僅かな空を塗りたくりながら何処かの止まり木へと吸い込まれてゆく。「君の脳漿をデザインするんだ」路面電車のうねりと水溜りが告げる時刻。高揚するミュージックと硬直したふたつの目。