半袖の秋
はだいろ

秋葉原の、ケンタッキーフライドチキンに並んで、
ポテトつきの、セットを買う。
つわりのひどい人が、ケンタのポテトだけが食べられた、
というのを雑誌で読んだから、
個人差があるので、単純参考にはならないらしいけれど。

それにしても、
秋葉原というのは、
それらしい人がいっぱいいて、
それらしい人が欲しがるものがたくさん売っていて、
ぼくはもういい年だから、
なるべくその根っこのほうを見てしまうのだけれど、
さすがに、
そのどれか一歩の蔦にでも、
ジャックの豆の木のように、つかまって登っていきたいとは、
思えなくなってしまっている。
石丸電機で、
スマフォやiPodも見たけれど、
それは、欲しいからではなく、
なくてもいいものだということを確かめるためだ。

実際、もうぼくは、
部屋の、ネットを解約しようと思っている。
テレビは、五年以上見ていない。
新聞も取っていない。
携帯も、ワンセグ機能もないものを選んでいる。
カメラは、フィルムカメラにしようと思っているし、
音楽は、ほとんどレコードしか聞かない。
ぶらっと寄席に遊びに行ければ、
もうそれでいい。

べつに、それは、けっして、
世捨て人になりたいわけではない。
そんなこと、思ってもいない。
ただ、
目に入るものが、多すぎるのだ。
秋葉原に行って、ほんとうに、そう思った。
なんだか、視界が暗く、
焦点がぼやける。
ぼくはもっと新鮮な世界を選びとりたい。
ただそれだけだ。
ほんとうに、ただそれだけなのだ。

ベッドからまるで起きられない彼女は、
ぼくが買って行ったケンタのポテトを、
いっぽんずつ、つまようじで口へ運んであげたら、
もしゃもしゃと、
一袋、食べきることができた。
ちょっとおならまで出た。
よかった。
もしこのまま食べられない状態がつづけば、
首の血管から、
栄養を入れなければならないらしい。
もう秋だ。
外へ出たら、
半袖では、ちょっと寒いくらいだった。








自由詩 半袖の秋 Copyright はだいろ 2011-09-25 19:18:44
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