天秤座
つむ

夜の境界の細いガラス線
危うく立ち 薄目をひらき
沈黙の表面張力 声は貝にねむり
とつぜんの風が雲を掃う、
月の咆哮が闇をきりさく
天秤座の右肩からこぼれ落ちる。
ことなる時間のせりあがる隙間を
布を背に、風を腹に
ぬるい大気を切って冷たい月光につらぬかれて
おちるならばおちるだろう
体温のことなど忘れ去ったまま
接続と切断のことばかり
考えていた。

呼吸、一人称の外にある惰性
永絶のとなりでめかしこむ身体
青ネギと野良猫と女王とボウフラ
古代都市の燃え落ちた場所で
たのしく泳ぎまわる小魚たち
そっとつり合ってゆく天秤
再び重なって行こうとする身体と非身体
空に残らない廃ビルの巨大な影

わたし
普遍にして陳腐なるタンパク質
わたし
重い肉のなかでのたうちまわる刹那の客人
わたし、夜の境界を落ちてゆくわたし
紙という質量のかなたから訪れる言葉の群れ
ペン軸のかなたへ去ってゆく言葉のひれ。

肉塊にからまって長い時をおちてゆく
泳ぎいでればそこに
天秤座の左肩がまっているだろう
わたし、反転と永遠のはざまにて
世界をこの夜わななかせる
わたしという
不在。


自由詩 天秤座 Copyright つむ 2011-09-25 00:38:51
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