睡眠しようとする者ども
榊 慧

「その若社長ってのが避妊前提だったのに生でやりやがったんだよ。あとで一万円プラスでもらったけど。」
「性病ちゃんと検査しろよお前。」
「多分ないけどね。」
その後彼と生で致した。射精は口で受け止めた。飲み込んだ。
「性病、もしなったら、二人でなおそっか。」
彼はそう言った、目を閉じてそのまま後ろに倒れ込んだ。

「その不安というのをそれを言わずに取り除きたかった」
「……。」
「………」
「不安ていうのはそれそのものに触れないと絶対とれやしないっての、解ってないでしょ?」
「……。」
「当たり前じゃん。それが、不安なわけだからさあ」
「…そうだけど」
「ずっと不安だったんだよ?知らなかったでしょお?」
「……」
「ごめん、て、言ってよ。」
「……。…ごめんね。」
「ちゃんと言ってよ。わかんないしずっと不安だったんだよ。ずっとわかんなくて不安だったんだよだからちゃんと、本音を言ってよ。」
「………」
「本音、やっとさっき言ってくれたね。」
「言うつもり、なかった。」
「泣いちゃったよ、」
「うん。」
「本音をいつも言ってよ。こっちはずっと不安なんだよ見栄とか意地とかそんなんじゃなくさあ、」
泣いていた。彼のシャツで拭った。三度ほど泣くのを繰り返した。少し。

「今日は俺が帰ってきたらお酒飲んで薬飲んでおとなしくして、寝よう。」
「うん。」
「なにもしないからな。」
「うん。明日は早起きして、早くに出よう。ね。」
「そうだね。」
「うん。」
交通費をのぞいた残り三千円の予算で二つ買える指輪など、売ってるのだろうか。不安だった。売ってなかったら、彼とのランチを奢るつもりだった。
幸せだと思った。幸せで泣けるのだと今日知ったな、と、思った。



散文(批評随筆小説等) 睡眠しようとする者ども Copyright 榊 慧 2011-09-24 20:52:06
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