秋幻燈
salco

アキアカネ つ、つ と飛んで
サルスベリの花は墓場に相応しい
しろい花 あかい花 
手に取れば 鷺草、彼岸花に似て

柿の実色づく帰り道
家々に祭禮提灯 
横腹の赤三つ巴 火の玉舞うに似て
闇落ちの懐かしさが濃く気配

どこからか大太鼓を打ち鳴らす音
どぉうん どぉうん
あれは触れ ですのね
祓い ですの

秋はとぼります
来るのでなく、刷くのでなく
灯る のです

金色の鳳凰が揺れ傾ぐお練り
いなせな揃いの法被衆が後ろを
ついて行ったまま帰らぬ子が、ほら


(街道を俥で通りがかった母娘連れ)
娘  「あれ、お母さま
    緋鳥居の奥の祠に千年狐が居ます」
車夫 「嬢ちゃん、ご覧なさいまし
    権現さまは北を向いてお待ちだ」
母  「死んだ娘に紅塗っておやり
    かわらけ売りに十銭包んでおやり」
めしいのかわらけ売り
   「回向ですじゃ
    供養いたしましょ、供養いたしましょ」

日本は
秋がとぼります
来るのでなく、刷くのでなく
灯る のですよ
隠れて居つて
一ツずつ、そこかしこ、鬼火のやう。
女先生がお教へくださりました
やけどのお顔に手拭をかむつていなさる
女先生がお教へくださりました

エンピツを巧くけずられぬもので
切出しを持つのが苦でした
学校そばの丸文堂の小母さんは
わたしが画用紙を買はうと
抽斗を持つといやな顔をします
わたしがかわたの児で
汚いなりをしてゐるのですから


ぬしはお八ツ貰へぬみそつかす
青ばな垂らして指くはへてゐる番
まま子は決つて隠れんぼの鬼
いつも一人ボツチと決つてゐるろ

朱塗り鳥居の向う
水子祠の向うは夕陽の世界
そこは何ひとつ明けぬ代り
何ひとつ暮れることがない。
念仏寺のお坊さまがお教へくださりました
けれどお母さんを苛むこびとの義父が
たゞれ目据へてわたしに通せんぼする
帰られない
だからついて行つたのでした

賑い掛け声 鉦打ち鳴らし
かがよう印半纏を頼み
影踏み影踏みついて行き
お祭り終わると知らぬ町


自由詩 秋幻燈 Copyright salco 2011-09-24 18:11:35
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