お片づけ
千波 一也
きみが
見送りつづけたあのバスを
撮ることなんて
出来なかったけど
きみが
待ちつづけた
あのバス停とベンチとを
ぼくは撮ったよ
現像なんかしないけど
捨てたりもしない
もう
なにも出来ない
※
窓の外には
枯葉がつもって
もう
そんな季節で
きみは
迎え入れがたい時間が
増えた、というから
ぼくは
秒針の音を
聞いている
※
泣き方に
手ほどきなんて
要らないけれど
細々灯れるものならば
教えを請うのも
わるくない
そう言ったきり
きみは
空の無言を
聞いている
※
守れなかったことの
寂しさが
悔しさを
呼ぶ
守れなかったことの
悔しさが
寂しさを
深くする
なにを
守れなかったのか
それはきれいに
忘れても
※
きみの願いの
うつくしかったことを
ぼくは信じてみるよ
きみの願いの
けがれを語ったりしたら
ぼくはこのさき
なんにも
願えない
※
履き古した靴の
いったいどこが
いとおしいのだろうね
指になじむ
紐の擦り切れ具合かな
無難に選んだ彩りの
褪せ具合かな
どこの物かもわからない
あちらこちらの
かかとの汚れ
かな
※
さよならを告げる
練習をしていたんだ
思い通りにいかない夕暮れは
そんな小さな焚き火に
興じた
くべる言葉の少なさに
身を震わせながら
※
きみからの手紙は
行間を読むことにしている
語らないきみの
呼吸にじっと
おもいを
馳せて
※
ゴールを決めたのは
きみだから
ぼくは
そこまで
せめて、せめるよ
きみが
応えてくれるなら
※
思い出さないほうが
いいことなんて
一つもない
わかりきってるからこそ
苦しいんだ
こんなに
※
青さは
ちっとも
変わってなくて
敢えて言うなら
変わってしまったのは
ぼくのほう
とても難しくて
とても易しいことなんだけどさ
※
得たものよりも
のこりのほうが気になって
ぼくは
ずいぶん
待たされている
※
かなしい言葉は
いらない
それを頼らなくても
十分にかなしめるから
よろこびも
同じ
※
生まれ変われるのなら
きみはまた
きみになる
という
ぼくは
きょうの日のきみを
どこか身近な土に
埋めておこうと
思って
星の
瞬きを
見上げてる
※
きみが
すきだった公園のことを
ぼくは描かなかった
そこから見える
雲のすきまや
街路樹の葉や
信号の静けさ
そういうものなら
描いておいたけど
きみに
見せる日は
来ないだろう
※
捨てるという
所作や言葉はあまりに
冷徹だから
決まりごと
そう呼ぶように
ぼくは心がけている
誰かにとっては
散らかったありさまに
映るとしても
なんとなく