お片づけ
千波 一也



きみが
見送りつづけたあのバスを
撮ることなんて
出来なかったけど

きみが
待ちつづけた
あのバス停とベンチとを
ぼくは撮ったよ

現像なんかしないけど
捨てたりもしない

もう
なにも出来ない





窓の外には
枯葉がつもって

もう
そんな季節で

きみは
迎え入れがたい時間が
増えた、というから

ぼくは
秒針の音を
聞いている





泣き方に
手ほどきなんて
要らないけれど

細々灯れるものならば
教えを請うのも
わるくない

そう言ったきり
きみは

空の無言を
聞いている





守れなかったことの
寂しさが
悔しさを
呼ぶ

守れなかったことの
悔しさが
寂しさを
深くする

なにを
守れなかったのか
それはきれいに
忘れても





きみの願いの
うつくしかったことを
ぼくは信じてみるよ

きみの願いの
けがれを語ったりしたら
ぼくはこのさき
なんにも
願えない





履き古した靴の
いったいどこが
いとおしいのだろうね

指になじむ
紐の擦り切れ具合かな

無難に選んだ彩りの
褪せ具合かな

どこの物かもわからない
あちらこちらの
かかとの汚れ
かな





さよならを告げる
練習をしていたんだ

思い通りにいかない夕暮れは
そんな小さな焚き火に
興じた

くべる言葉の少なさに
身を震わせながら





きみからの手紙は
行間を読むことにしている

語らないきみの
呼吸にじっと
おもいを
馳せて





ゴールを決めたのは
きみだから

ぼくは
そこまで
せめて、せめるよ

きみが
応えてくれるなら





思い出さないほうが
いいことなんて
一つもない

わかりきってるからこそ
苦しいんだ
こんなに





青さは
ちっとも
変わってなくて

敢えて言うなら
変わってしまったのは
ぼくのほう

とても難しくて
とても易しいことなんだけどさ





得たものよりも
のこりのほうが気になって

ぼくは
ずいぶん
待たされている





かなしい言葉は
いらない

それを頼らなくても
十分にかなしめるから

よろこびも
同じ





生まれ変われるのなら
きみはまた
きみになる
という

ぼくは
きょうの日のきみを
どこか身近な土に
埋めておこうと
思って

星の
瞬きを
見上げてる





きみが
すきだった公園のことを
ぼくは描かなかった

そこから見える
雲のすきまや
街路樹の葉や
信号の静けさ

そういうものなら
描いておいたけど

きみに
見せる日は
来ないだろう





捨てるという
所作や言葉はあまりに
冷徹だから

決まりごと
そう呼ぶように
ぼくは心がけている

誰かにとっては
散らかったありさまに
映るとしても

なんとなく









自由詩 お片づけ Copyright 千波 一也 2011-09-24 16:30:53
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