娘は山羊
高梁サトル
高い山の上にある洞窟の中
さかさまに本を開いて
愛しいあの子の為に記号を探す
手紙を綴るために
相応しい記号を贈りたいのに
不味くて吐き出してしまったり
美味しくて食べ過ぎてしまったり
偏食で消化不良
なかなか埋まらない便箋を見詰め
メエッと泣き
黙々とページを捲る
時々麓の村におりれば
ねじれた太い二本の角は儀式の道具に
あたたかな産毛はカシミアの素材に
傷ひとつない身体は荒野の生贄に
みんな持っていかれてしまうけど
村人たちが好きでたまらない
夜中明るくて騒がしい
街は苦手
営みが煩くて大切な音を見失うから
同じ過ちは二度繰り返さないと
メエッと鳴き
静かに耳を澄ませる
・
ゆめは
あの庭の広い大きな家で
愛しい人たちに囲まれ
上質な和紙を食べて
慎ましやかに過ごすこと
だけど
今はまだ囚われの身
狭い空に
メエッと吠え
気分で雨を知らせる