娘は山羊
高梁サトル


高い山の上にある洞窟の中
さかさまに本を開いて
愛しいあの子の為に記号を探す
手紙を綴るために
相応しい記号を贈りたいのに
不味くて吐き出してしまったり
美味しくて食べ過ぎてしまったり
偏食で消化不良
なかなか埋まらない便箋を見詰め
メエッと泣き
黙々とページを捲る

時々麓の村におりれば
ねじれた太い二本の角は儀式の道具に
あたたかな産毛はカシミアの素材に
傷ひとつない身体は荒野の生贄に
みんな持っていかれてしまうけど
村人たちが好きでたまらない
夜中明るくて騒がしい
街は苦手
営みが煩くて大切な音を見失うから
同じ過ちは二度繰り返さないと
メエッと鳴き
静かに耳を澄ませる



ゆめは
あの庭の広い大きな家で
愛しい人たちに囲まれ
上質な和紙を食べて
慎ましやかに過ごすこと
だけど
今はまだ囚われの身
狭い空に
メエッと吠え
気分で雨を知らせる


自由詩 娘は山羊 Copyright 高梁サトル 2011-09-22 21:06:35
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