パソコン
花キリン
この頃はパソコンを筆の代わりにしている
指先だけが大きく成長して脳の一部は退化してしまったが
それでも老いの防止にはなるからと
漢字などの変換機能に思考の一部を委ねている
この世界は魔物ですよと
迷い込んで死んでいったものたちの声が聞こえてくる
世界の隅々まで駆け足で回れるから
パソコンに紛れ込んだ誘惑の罠に落ち込んでしまうらしい
電気や電話ましてや水道のなかった時代があった
あの時代を営みの恥部と表現した輩がいたが
あの純粋な営みこそ生きる原点であった
危険な思想や罠などはどこにもなかったから
野原を裸足で走り回ることができた
貧しさを積み重ねるようにして咲くランプの芯の心細さ
群れてひっそりと咲いていた菜種畑
その油で七人家族が生活をしていた
私が生まれる少し前にやっと電気が通り
ラジオから見知らぬ人の声が流れてきた
貧しさと引き換えに手に入れたもの
まわりには長生きばかりが増えてきたが
奇声を発しながらやっと生きている
パソコンの世界では当たり前なのだろうが
野原を裸足で走り回ったものにとっては
理解しがたいことばかりだ
常軌とは逸するものだと
心の変換まで許可なく行われている
死んでいるのだという
パソコンに取り込まれた自画像はすでになく
あまりにも多くの機能という香辛料に
麻痺という死に侵されているのだという
この頃はパソコンを筆の代わりにしている
罪のない幼子のような愛おしさで思考の一部を委ねている
ここまでが私のできる精一杯のパソコンへの想い
死んでまでパソコンに取り付かれるなんてごめん被りたい