雨音の旅路
つむ
浸水した夢を走る銀の列車
空洞の線路には星屑が降りつもり
ちいさな灯りの駅を次々に後方へ跳ね飛ばすたび
蔦草のからまる最深部へと
どこまでも潜り込んでゆく
顔の見えぬ乗客とふたり
異国のカードゲームに興じ
勝った 負けた どちらでもよい
手元のコインを引き寄せ奪われ脇によけ
宙に弾きあげてはくるくると回し
どこまで行かれるのですか?
わからない 雨が止むまでは
ふと話すのをやめて開いた小型の本から
一枚のしおりが滑り落ちる
どの頁を覚えておこうと思ったものか
もはや 思い出せず
次の停車駅は、
静かな車内放送はそこで止み
続きを待つともなく待ち。
ふっと息を吐き出して。
聞こえますか?
ええ 遠雷ですね
怖いのです
大丈夫 じきに止みます
顔のない連れ合いはふと微笑んだように空気を緩ませ
コインの裏と表を返して見せる
これは?
横顔です あなたの
物珍しげに手にとって眺めていると
不意に幼子にかえったような不安がこみあげ
雷は近づいてくるでしょうか
来るかもしれない だが恐れることはありません
優しい連れ合いはまたカードを手にして
微笑みながら私を負かす
こわいのです
呟きにもはや答えず
どこまで行くのでしょうか?
カードを切り混ぜ、
あなたは
手の内を見せることはなく
(わたしは、)
列車は音もなく水を切り撥ねながら滑ってゆく
向い合せ テーブルの上には、
二つに分けられたコインの山
最後には全て差し上げますよ
そう言ってステッキを軽く振って見せる
顔のない私の連れ合い
長い長い旅路で
ただ私とふたりきりの。
雨はじきに上がり、雷も止むでしょう
列車は終着駅につき あなたを置いて去る
何も怖いことなどないのです
窓ガラスには細かな雨粒が燦然ときらめき
私の息でわずかに曇る
連れ合いはステッキを置いて再びカードを切り始め
日常、日常、日常ですよ
茶目っ気を覗かせて言うので
ああフルハウスですね
始まりと終わりを足して。
私はひどく安堵して 座席にもたれかかり目を閉じる。
そうです 等しいのですよ
何度目かのまどろみに落ちようというとき
再び連れ合いの柔らかな声音が聞こえ
終わりには全て 差し上げますからね
ええ、どうか そうして下さいね
呟いたつもりで半分は
浸水する夢のなかを 走ってゆく 銀の列車。