つや
オイタル

長く患っていた父が死にました
お通夜の部屋に潔い木の香りが流れました
父は長く一人だけの眠りを眠り
お線香はくるくると回っていました

わたしたちはチョコレートを
食べました 金色の銀紙を丁寧にはがし取って
割れるような悲しみ ということを 
まずは 避けて
わたしたちの
きれいに四つに切り分けた
西洋なしも おなじように

宵闇は
わたしたちの夢や悔いまでの道のりを
よく取り囲んで守り
お通夜の時までの長い時間を
巻き取って暖めました

老人たちはいつものように笑います
いつの間に老人になったのかもわからぬふうで
とても やさしく

長く患った父が死にました
妻はしきりに顎を突き出して
冷えたのり弁当を口に運び
息子は肥え太り
嫁は右と左が分からない
ひさしぶりに出会った兄に向けて
まずはどうでもいい話を バスの話を
しきりに語る

もっと違った 大切なお話をなさい
もっとあるはずだ 今であるべき
チョコレートの話とか 畳の話とか
それから たとえば
長く眠っていた父の話とか

そして夕暮れとなり
わたしたちは帰ります
白い木目に沿って
床をまっすぐに踏み鳴らして


自由詩 つや Copyright オイタル 2011-09-17 22:36:33
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