つくせぬ手紙
乾 加津也
友へ
こころを寄せて
手紙をしたためています
わたしのうしろで書かれないものたちが
茶化して耳をくすぐります
フェルメールの筆は光の代用
ずっと見ていたかったのに
わたしは弁明しなければなりません
アメンボの糸のような己の投影
(すべるような/ことばの/うわつら)
はるかな
友よ。
読書のやすみを掻きわけて
ふとした乱気がわたしの背画をゆるめます
うすむらさきの「石の都」を知っていますか
霧が矢のように走るころ
タールまみれの工場に隠れた瞳
斜陽で捩れた手押し車が燃えています
とおくで濡れた歓楽街にもにて
虫を咥えたすずめも笑う
(あまった翅は/すてておしまい/水に刺して流しておしまい)
せつなの
友よ。
きみの夢は抱えきれないほどの報酬をつれてきみのもとへ戻りましたか
やあ ずいぶん老けたもんじゃないかと
すぐに懐を開いて
それともまだわたしのように
子どもじみた嘘(いいわけ)で負惜しみの晴天にひょいと逆立ち
近ごろはどんな些細な選択ひとつにも
大きな声で答えたくて
しかたないのです
夜風にしだく いつかの
友よ。