旅立ち
nonya


旅立ちは賑やかだ

大皿に盛り付けられた笑顔と
色とりどりの激励の前で
あくまでも清々しく感謝を歌い
覚悟の靴紐を適当に結んだら
潔く見えるように出発しよう

旅立つ者の不安は誰も知らない
旅立つ者の絶望は誰も知らない

知る必要もないのだから

緩やかなセレモニーのせせらぎを
決して堰き止めてはいけない
それが旅立つ者の礼儀だ

手を振る友の姿が
見えなくなった所から
本当の旅が始まる

ひとりあるいはふたりぼっちの
旅が始まる

怨み言を撒き散らしながら
悪意の石に躓きながら
自分の青さを笑い飛ばしながら
人の情けに溶け出しそうになりながら

一歩ずつ
目的が分からなくなって
一歩ずつ
行先が見えてきてしまう
そんな旅が始まる

旅立ちは賑やかだ

「頑張れ」のファンファーレには
「頑張ります」の号砲で答えて
手渡された偽善者のお面は
大切にリュックの底に仕舞い込んで
気持ち良く見守られよう

ほら

まだ手を振っている
お友達がいるんだから
腕が千切れてもいいから
激しく手を振り返してあげなよ

もう二度と
戻って来れない旅なのだから




自由詩 旅立ち Copyright nonya 2011-09-17 11:48:02
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