君の猫
草野春心



  猫よ
  おまえは邪魔だから
  どこまでも流れていってしまえ
  そう言うと僕は
  ギャアギャアとあばれる君の飼い猫を
  便器に放りこんで
  「大」のレバーを回したのだ
  ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅると
  猫は流れていった
  速やかに、けれども
  末代まで祟ってやると云わんばかりの
  威嚇の形相で顔をゆがませ



  それから僕は
  寝室に戻って君と
  朝の性交の続きをした
  そのあいだじゅう
  二人とも何も言わなかったし
  呻きひとつ洩らさなかった
  誰にきかれてもかまいやしないのに
  カーテンが微風になびき
  あざやかな鋭さで光が
  僕たちの裸体をえぐっていった



  君の猫は
  どこかうすぐらい地の底で
  汚泥を踏みしめてひっそりと歩いてゆく
  やがて君の猫は鼠を食べるだろう
  君の猫は昆虫や砂や、その他
  なにか得体の知れないものを食べるだろう
  君の猫は恥辱を感じるだろうか
  君の猫はほんとうに僕を恨むだろうか
  彼はいつか
  まばゆいばかりの
  光に
  海の蒼さに
  もう一度出会えるだろうか



  最後に君は
  君の裸体は
  僕の指に指をあて、眉をひそめながら
  あっけないくらい滑らかに
  一つ一つの皮を剥ぎ、肉をそぎ
  一つ一つの
  無愛想に尖った骨をしゃぶってゆく
  なんの味がするのだ
  誰の味がするのだ、君の裸体は
  一つ一つ、尖った指の骨をしゃぶってゆく
  何をしているのだ君の、僕の
  僕と君の裸体は
  もう
  ただの
  透明な残骸だというのに





自由詩 君の猫 Copyright 草野春心 2011-09-16 17:49:41
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