裏庭に唄うカエル
つむ
明日はうつくしい晴れになるでしょうと
天気予報が告げた直後
午後の街のやさしい死に顔を
にわか雨が柔らかな水柱にとじこめていった
***
実験用の裏庭でカエルが鳴いている
ガラス戸を開けて ベランダに歩み出るが
カエル達はひっそりと唄をつづけている
(えと、 いん、
(せくら、
夜ごと私は自分の腹を裂いてみて
どす黒い血の塊を見つけ安堵する
骨のやぐらのあいだに置かれた
終末の装置を濡れた指でなぞってみる
いつか不意におどけた手つきで
ボタンを押してしまうかもしれない
それを恐れていないことを私は笑う
濡れた指先をゆっくりと舐めて腹を閉じる
もう何度も開かれたそこは痕がついてしまって
繰り返し読まれた
アルバムのようになっている
夜が更けて疲れたカエル達を沈黙がつつむ
明日の清潔な実験のために
二、三匹が列を外されてゆく
(……、 ……
(………
満月から視線を落とせば
今日もすこし痩けた頬でまたたき微笑んでいる
街、
鳩尾に手をあてたまま 黙って眺める
ひたいを掠める夜風
私の中を吹き過ぎ、中心の装置を涼しい指で撫で
それがそこにあることをそっと知らしめてゆく
カエル達がふたたび唄い始める
(……えと、 いん、 せくら
(せくろるむ、
(…あめん、
月を吹き消し私は踵を返す
実験用の裏庭で唄は続いている
後ろ手にガラス戸を閉めて座り込み
誰にともなく微笑んでみせる
街のように。
乾いた指でみぞおちを押してみて、
明日は肉を食べようかと呟く
***
にわか雨が洗い去った街並み
買い物かごに肉の塊を放り入れながら
私はそっと おさまらない腹の裂け目を撫でてやる
裏庭では今夜もカエル達が鳴くことだろう
何度連れ去られても、
(えと いん せくら せくろるむ
(あめん
なお、