お化け煙突
殿岡秀秋

雲を帽子に四人の巨人が
千住の街に立っている
頚に銀色のネクタイをつけて
黒い服を着ている

ぼくが手をふると
こちらをみおろす
狭い路地に入っても
のぞいてくれる

走る電車の窓から見ると
となりの巨人と重なって見える
四人が三人になり二人になり
かっぷくのいい一人になる

さらに電車が進むと
一人が二人に分かれて
三人になり四人に離れる
隅田川の岸でときたま煙草の煙を吐く

風が吹いても雨がふっても
いつも直立している
ぼくが笑うと巨人も微笑んでくれるんだ
なんとなく頼りにしたい気分になる

小学校に入学してぼくが
緊張して座った教室の
窓に巨人は映らない
頼りにするものが見えない

こうして生きて何になるの
と学校からの帰り道に尋ねても
富士山の方を向いて応えてくれない
ぼくは彼らを見あげなくなった

突然巨人の声が
授業中のぼくの耳に聞こえた
倒されるまで
立っているだけさ

古くなった火力発電所の煙突は昭和三九年に壊され
千住の街に長い影が消えた
残骸の一部が川に近いよその小学校の校庭に
滑り台として残された

大人になってふと見あげると
電車の車窓から
ビルとビルの間に浮かぶ
黒い服の四人の巨人が見える

倒されるまで
力を抜いて立っているよ
とぼくが語りかけると
雲の帽子をかたむけてうなずく




自由詩 お化け煙突 Copyright 殿岡秀秋 2011-09-15 06:42:20
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