夜を織るひと
佐々木青

わたしたちは知らない
夜の闇のいちばんふかいところで
じっと目をとじ 夜をつむぐ
夜の織り人がいることを

あらゆる夜の恩恵をもたらす
ものを語らぬ夜の織り人がいることを

夜のしずけさは織り人のつかわす
陽気な虫たちの合奏に耳をすますために
夜のすずしさはたがいに身を寄せあい
わたしたちの愛をはぐくむために

わたしたちはそういう夜を愛する
夜にだかれて
やさしい眠りにつく
すべて 身も心も
夜のふところにあずけて やすらかに

それらはひとり
夜を織る人のめぐみであることを
わたしたちは知らない

じっと目をとじて
誰よりも濃い闇をみつめて
本当にひとりきり
誰にもたよることなく
おそろしい夢をまぶたのうちに
おさめながら縫い裁つ人―

ときおり
わたしたちが見る
おそろしい夢は
織り人のまぶたからこぼれた
なみだだということを

わたしたちは知らない

わたしたちがまれに夢に見てしまうような
身をふるわす寒さとふるえ
それこそがほんとうの夜のすがただということを

わたしたちは知らない

わたしたちは夜を愛する

この清らかな闇のなかでこそ
はるかのときをこえ
かがやきわたる星々は
しずかに息づき
わたしたちは
そのひかりを愛するものへと
そっと 贈ることができる

美しくつむがれた夜

わたしたちは知らない
夜を織る人のねむりにも似た沈黙を
ひそかに夜をつむぐ織り人のすがたを
わたしたちは知らない


自由詩 夜を織るひと Copyright 佐々木青 2011-09-15 02:50:27
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