夢猫
たま
わがままなあなたのReは愛しても
まだ足りないと盗みいるひと
雨の夜は朝がこないとテレビのなかの猫たち
雨でも散歩はできるよね、と
傍らのちいさな犬はぽつり
おやすみが言えなくなって眠れないわたしはパソコン
深夜料金ではたらく皿洗い機はおかまいなし
まだ蒼いスモモのように
夜はいつまでも落ちなかった
この部屋が空っぽになったら
夜は熟れて落ちるだろう
そして、わたしはふかく眠る
目覚めた部屋には、夏が満ちているだろう
ふり返らない明日を生きて
終わらない桜若葉の夢はあの世に持っていけばいい
もがいても
もがいても
足りない人生なのだから
眠りのなかでかたちを失くしてゆくかわいいひとに
わたしのメールはもう届かない
いいよ
かまわないよ
愛するひとのためにわたしは死ねない
わたしは月のひと
うそは言えない体質なんだ
眠りのなかにちいさな死をひと粒ずつ植えつけて
すこしずつ死んでゆくよ
ごめんね
気のよわい宇宙人だよね
また、メールください
月夜があけたら帰ってくるから
かわいいひとの眠るこの星にね
あなたの愛のチカラで読みとったアドレスで
また始めるの
じゃんけんポン
あいこでポン
あっち向いてニャン
あ・・、もうすぐネジが切れるよ
23時57分
わたしのアドレスは日払い契約だし
ケイタイはネジ式だから
あしたのことはわからないの
じゃあ、もういちど
じゃんけんポン
あいこでポン
あっち向いてニャン
ほら、あなたは猫になる
月夜になれば泥の河を渉って逢いにくる
汚れた四肢を井戸で流して
そっと蚊帳をくぐる
汗ばむ夜のひんやりとした素肌
わたしの火照った根っこにからんで
この身体のどんな傷も一夜で消してしまう
たしかにあなたはかわいい夢猫だ
ひと夏でいいからと契ったのは昨夏なのに
あなたの欲しいものってなんだろう
巣穴を捨てきれない夢猫の
輪廻のような愛って
なんだろう