浜辺へのコラージュ
草野春心
銀色のスーツを身に纏った男が浜辺でギターの
死体を検分している。場違いなセンチメントが、
五十六種類ほど波間に明滅しているが、男は勿論
意に介さない。鉄の壁。クラプトンの遅い指。許
しているのは子ども。太陽が光度を増してゆく。
私が知りたいのは猫の行方なの。ほそい電話線
を通過してゆく尾、爪、瞳、ニャアニャア。やれ
やれ、そんなのは女の言い分だ。獺はそうぼやく
と、マイルド・セブンに火をつける。一九九八年
の夏のことだ。洗剤が切れていた気がする台所。
祖父が死んだ。生きるのを終えた。私は十四歳
だったが、ヒトラーは没していた。指揮者はいつ
までもタクトを振っていた。テーブルの上の灰皿
はいつまでも灰皿で、しかし隙をみてはポエジー
への転生をはかっていた、伯母談。ひどく暑い。
執拗な円環。下卑た大学生の下卑た歯の色。老
人は何ひとつ信じない。青いのは空と、海と、そ
れから鏡。青くないものを彼は信じない。マイク
ロソフト社やプラスチックやニーチェや枝きり鋏
のことを。彼は死にたいと思っている。誰もが。
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コラージュ×4!