銀河の下で
砂木


暗くなる前から隠れる所を捜した
冷たい風を避けて 二人は草の茂みに潜んだ
ざああ ざああ 荒れ気味の風が林檎畑を走る

強い風に羽があおられて もっと草の奥へと
二人は入り込んだ
夜空に星と月が きりきりと輝き
四枚の羽は どれも傷付き 
夜露に濡れたくはなかったが
木の葉の裏では たたき落とされてしまう
二人は 草の奥でじっと 朝の陽ざしを待った

深夜 冷気はますます強くなり
柔らかな草は 徐々に凍りつき
凍りついた草は 氷の刃となって
とんぼ達を苦しめはじめた
草に触れた部分が 痛めつけられる

背中に乗るように 片方のとんぼが促した
動かなくなってきた足をはわせながら
もう片方のとんぼが 背中によじ登る
二人は 霜柱が降りる中 羽を重ねて耐えた

朝 霜柱が黄緑の草を氷でからめとっている
風に吹かれ なぎ倒されたまま
草はその冷たさに 身をまかせていた

飛べるかもしれない
背中の上に乗っていたとんぼは 霜柱の上に飛んでみる
下で支えていたとんぼは その途端に体を丸めて倒れた
凍った草にずっと立ち続けた体は 限界だった

きこえない悲鳴が草むらに響き渡る

飛び上がったとんぼは 倒れたとんぼに近づこうとするが
一度 出られたはずなのに 凍った草の中には入りきれず
でも 身をよじって倒れこんでいるとんぼの側へ行くため
何度も上下に飛び上がっては下降し
ついに側に行って 細い六本の足で掴み上げようとしても
触れるな と制しされた
凍りかけている 置いて行け
それでも 何もできることはないのか
四枚の羽がはなびらのように上下に舞う
バチッ バチバチバチッ 羽音は雷のように空気に満ちた

何をやっているのだろう
そろそろ陽も昇り 凍った林檎が溶ける頃と
林檎畑にやってきた私は 雷に打たれたように立ち竦んだ
いつも スイスイと横に飛んでいるとんぼが
狂おしい羽音で上がったり下がったりしている
あんなとんぼの羽音を聞くのは 捕まえようとして
逃げようとされた時くらいだ 何が起こっているのだろう
側に行って見ると

飛んでいたとんぼは逃げて その真下に
別のとんぼが転がって ぴくぴくしていた
霜柱の中 身動きとれずに弱っている
ひょっとして このとんぼのためになのか

羽を軽く持ち 凍っていない草の上に置く
とんぼは軽く抵抗した 意外と元気
後は知らないけど まあ がんばれ
偶然の気まぐれが 何か起こせるのか

林檎もぎを始めてから霜柱も少しづつ溶けて
羽織った上着を一枚脱いで そろそろ休憩
カラの林檎箱に座りながら お茶を一服
すると目の前に とんぼの夫婦連れが飛んで来て
ぴたり と止まった

あれっ?

とまどいつつもじっとみていると
やがて二人は 離れて行った

さっきのとんぼ達かなあ そうかなあ
別のとんぼかなあ

おい そろそろはじめるぞ

はいはい

私はお茶をかたづけて
林檎もぎに戻った











自由詩 銀河の下で Copyright 砂木 2011-09-11 07:08:54
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