still
寿

あなたとさようならをした日

最初はとても晴れた日で

いなくなる日は
ほんとうにたくさんの雨が降った


ばいばい
ばいばい

あなたはたぶん
そんな言葉知らなかったのに

ずいぶんと僕を泣かせたのだ


思い出の中で笑ってて
戻ってくるときれいな真白色
世界はなんにも変らなかった

あの日もたぶん、そんな日だった


今でもわかるんだよ

玄関裏の長靴
花の咲いた庭先の如雨露
結ばれた小屋の針金

いつも座っていた窓際の椅子
クローゼットのなかのワイシャツ
あのひとのために作ったキッチンの腰掛け


あなたはいろんなところにいて
今でも僕を時々泣かせる


腕を後ろに組んで
ゆっくりと顔をあげる
本当は気づいていたのに
驚いたふりして笑うのが好きだった

聞かせてくれたことはなかったけど
たぶん歌も上手かったんだろ



鏡の中に
あの頃とは違う自分がいて
生まれてから最後の日までのたくさんの言葉を
今も後悔しながら生きているよ


優しい人

この瞬間のあの日のこと

泣き顔しか思い出せなくてごめんね

まだ時間が必要かもしれないけれど
なんとかがんばってるから


新しい日に
また会えなくても

そうだ
いるんだよな

そう思って世界を柔らかく踏みしめる

まだ、生きられるんだな
そうだよな

僕が生きている限り
いなくなることはないのだ

まだ、いるんだな


僕が生きようとする

この中のどこかに





自由詩 still Copyright 寿 2011-09-10 17:18:26
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