花キリン

                            

孤独な家である
夜になると
独り言のように明かりがぽつんと灯る
人の気配はするのだが
玄関がない ことりともしない
死んでいる気配のようだ

大きな窓が一つ
魂が出入りする場所だ
紅葉の大木が一本
かさこそと冬の訪れを知らせる鐘だ

今年は雪が多くてね
昔の声が取り残されている
郵便受けもなく蘇るものがあるのだろうか
家とは温もりです
飾るものはなくてもいいのですが
人の温もりがなければ家ではありません
きっぱりとした一言

孤独な家である
世帯主が消えて六十年が過ぎた
大きな不器用が隠されているのだろうが
哀悼の真似事であっても心は重い
海深く眠っている魂
あれからまだ一度も帰って来ない

新しい玄関を取り付けて
それから遠い昔の笑い声を表札にした
魂の出入りする場所には
思い出のアルバムを飾って
まわりの静けさに笑い声が交じり合って
妙に落ち着く時間が訪れるとしたら
これはまぎれもなく家である


自由詩Copyright 花キリン 2011-09-10 07:16:22
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