長命な九月
小池房枝

  
青い薔薇の花の実は何色だろう

仙石原ノーストリリアの羊たち

東雲にオリオンと冬の大三角

夕焼けが夕映えを連れてやって来た

栗、クルミ、君らの双葉は分厚かろう

ウデムシの腕よりやさしくクモヒトデ

ヤシガニを探して深夜の女子トイレ


再帰せよ夏よ無謬の独裁よ

論無用ただ反撃せよ白き風

大根で殴るそれから煮て食べる

どこかしら夏休み明けの水族館

寂寥の山脈を越えて秋が来た

羽化したて全き二頭のアゲハチョウ

宵の口なのに朝貌咲きたそう

ネムの木の天辺名残の花に風


美しい眼という名前のユーグレナミドリムシ

薔薇窓のロザリオ夕陽に忘れ物

西向いていただく初物アップルパイ

咲きながらバジル一粒ずつ実る

カサブランカ開けば戻る夏の闇

その顔はあまたの触手 灯を点す

ルルイエと鳴く秋の虫もいるだろう

ステップを踏んでナイアルラトテップ


貌のない混沌カオスナイアルラトテップ

星辰を切り分けて遊ぶ星の神
 
肋骨はカメの甲羅にもなりました

血の中の鉄の由来は超新星

ヒアデスは此処です牛の赤い瞳

ミンタカを見たかとアルニラムアルニタク

リコリスといえば可憐な死人花

くず洪水 電信柱の足元に


キンモクセイ雨一夜分のにわたずみ

参られよ王子の狐オリオン群

白、薄黄、白銀とりどり花薄

光あれ魚影が魚体に添うために

風はまださまざまな色に騒がしい

咲き果てた向日葵どっしり涼んでる

夏のあと公園はセミの穴だらけ

跪くなんてあやうい文字だろう


水引が標結しめゆふ林に風ばかり

旅客機の孤影に点る夕日かな

一滝の萩 押す風を押し戻す

ドングリがぱたんぽとんと落ちる音

百日紅あらためて高く天を指す

地球照あの弓の下に何がある

猫は目をどこまで細められるだろう
  


俳句 長命な九月 Copyright 小池房枝 2011-09-08 19:46:33縦
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