金魚
つむ

汲み置いた澄明になお念を入れ
氷砂糖のようなカルキ抜きの粒を一つ二つ
一パーセント濃度に計算された塩を狂いなく量り投じ
溶かし
晩夏のあかるい日差しの中で
すきとおった病室に赤い尾をひるがえす金魚

小さい泡を吐いている

耳を澄ませば幽かな口ぶりで
ぶくぶく
そんなにも生かしておきたいのだね、
金魚はわらう
おまえは変わったやつだ

赤い半透明のからだにまとわりつく綿のような白い病巣
微細な硝子細工の泡を惜しみなく転がしては壊し、
涼しげな顔つきでお前は泳いでいる

ぶくぶく
夏だね
そう何度目の夏だろう
お前、汗をかいているね
水の外は暑いのか

身じろぎするとべたついた手のひらで塩がとける
額に髪を貼りつかせている私の前で
一パーセント溶液の病室を金魚は軽やかにひるがえってみせる

ないはずの瞼を半ば閉じ
憐れむように金魚はわらう
優しく泡をころがしながら

ぶくぶく
私の蝕まれた体が腹を見せて浮かぶ日
べたべたにどろどろに汗をかきながら
お前は私を見つめているのだね
大丈夫、お前の骨の間はだいぶ住み心地がよいから
私はもうずっと何度でも
そこで尾をはためかせてあげよう

西日の傾きが四角い小さな部屋に忍び込み
真っ赤な旗(フラッグ)が永遠に振られている

夏だね
ああ何度目の夏だろう

透き通った病室に涙をそそぐ私を
幻がやさしい二つの眼でみている。


自由詩 金魚 Copyright つむ 2011-09-06 22:24:51
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