夜と不眠
はるな

(2:24)

夏の底では
夜が冷える

縫い合わせた理性では
この泥濘は超えられぬ



(3:39)

季節がかわるときに
おもいだしている
漣のような
残酷さで

おもいだしたくなんてないのに
同じ季節を
過したことなんてないのに

窓からは
さよならのにおいがしてる

さよならなんて
したことも
ないのに



(3:43)

よごれた目で
愛そうとした
いっぽんの釘を

うちぬいて
ひきこわして
のたうちまわり
ひとを
傷つけてまで

だんだん
愛とはちがうものになるのを
感じながら
愛そうとしていた



(6:14)

渇いて
さらさらになった
からだが軽くて
ないものみたいで

とおくで声が響いて
自分が
ないことに
気付く

百年おくれで
相槌をうつ


なにも
ないことの
喜びが
ある



(6:22)

朝にちかい
まよなか

死んだひとのことを
考える

みがるで
やさしくて

ひょい


いってしまった

よくはしらない
彼のこと

わたしが
男に抱かれるあいだ
涙を
海ほどながしたか

夕暮れ
青菜を刻むときに
絶望が
にじんだのか

ああ

忘れ物はない?

この世界に
ひとつも

なければ
いいと
思うし

ないのは
すこし
かなしい

全部もっていったの?

むりだよ

でもたぶん
全部もっていったんだね

そんなに
みがるで
やさしい

いってしまった
ひょいと



(8:54)

みあげる骨の健やかさを
わたしは何にたとえよう

いくつもの朝に晒され
数々の夜に沈んできた
その健やかさを

浅ましい好意と
めぐる血の素直さを
伸びやかな成長を
感情を吸い込んだ目を

その温かな健やかさを
わたしは何にたとえよう



自由詩 夜と不眠 Copyright はるな 2011-09-06 10:58:06
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