音符のある風景
ささやま ひろ

メゾピアノから入る旋律を
僕はとても気に入っていたんだけど
どうしてもイメージ通りに弾けなくて
いつも最後には
鍵盤をぶっきらぼうに掃除しあと
それでも静かに蓋を閉めた

あのころ優しく扱わなければいけなかったのは
ピアノだったのか
弾けなくて齧った自分の指だったのか
親の想いだったのか
月並みに言うような自分の心だったのか

子供心に奏でたイメージは
なぜか大人になっても残っていて
感性に成長がないんじゃないかと思いながらも
目を閉じて五線譜をたどる
齧った指はいつまでも痛かった

優しさと暴力と屈折と暗闇
半オクターブ上がったら弾けない恐怖

今弾こうとしたら
自分に嫌気がさすことが分かりながら
ピアノの前に座ってみたら
楽譜を読むのがとても苦手で
暗譜でごまかしたことを思い出した

どうして楽譜を読めないって
正直に言わなかったのか
怒られたくなかったのか
恥ずかしかったからなのか
悔しかったからなのか

あの頃の風景は
少し昔のカラー写真のようで
赤や緑が不自然に鮮明な古い世界なのに
手で触れられるような近くに感じて
胸が少し苦しくなる

1オクターブとあと1音
僕の手はあまり大きくなってない
あの頃の旋律は今も忘れないけど
時間はやはり経っているわけで
僕の指は鍵盤を弾けない

君と暮らすその前に
話しておこうと思う

どうでもいいこの話と
ピアノを弾きたいってこと





自由詩 音符のある風景 Copyright ささやま ひろ 2011-09-04 18:00:55
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