埋葬
はるな


雨が降っている。わたしは埋葬する。恋のような、後悔のようなものをを埋葬する。小さなものを。浴槽に腰掛けてひやりとした刃をあてられる。剃り落とされる。粟立つ。あなたの顔が見えない。膝元に屈み刃をあてるあなた。ひそやかに盛り上がる肩の筋肉。あなたが不安だと言った。チョコレートのように不安だと言った。溶けてしまいそうだと言った。わたしはあなたを馬鹿だと思ったし、好きだと思った。そして今あなたは不安を剃り落としている。わたしの膝元に屈んで。いったい、これはなんて卑屈な姿勢だろう。胸がすうすうした。わたしがすこし肌を揺らせば、あなたの剃り落とす不安はたちまち割れてしまうだろう。取り返しのつかないくらいの赤であなたが壊れてしまう。静かにしていてあげるよ。静かに雨を聞いている。夜も雨も君の肩越しにある。いっそ世界がその肩越しにある。誰もここへ辿り着けないだろう。そのように遠い場所で、安心して、埋葬する。



自由詩 埋葬 Copyright はるな 2011-09-04 01:10:25
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