夜光虫
乱太郎

夜中になれば静寂の火が灯る
何もかもが去っていき
あるものが忘れられる
時計の規則正しい針の音が響き
時折救急車のサイレン音が割り込んで
誰かを連れ去っていくのだが
私の背中を刺すものに出会ったことがない

     *

標本箱に納められるのは
決まって美しいもの
    珍しいもの
焼けつく黄色の太陽を愛したものたち
         に従属したものたち
【白・赤・緑・黄・青・紫】
    踊り子の蜜に求愛するもの
         から愛を奪うもの

    *

私は飛ばない小さな翅を震動させる
鈍く光沢の無い音が地下の壁から染み出して
誰にも清掃されなくなった配管を揺らす
聴こえているかい
そんな戯言ももうどうでもいい
私はただ闇に悶えているのだから
蛾のように流離うのも飽きてしまった
図鑑から外れてしまった同科同目にいつか
私の濁った分泌液に誘われて巡り会えたなら
その時ばかりは願いを託そう
一本の虫ピンを
黴だらけの標本箱に


自由詩 夜光虫 Copyright 乱太郎 2011-09-03 13:07:14
notebook Home 戻る