あのときこそがきっと本当に夏だったのだ
ホロウ・シカエルボク



悪くなったアイスコーヒーみたいな街の小さな川で
潰れた空缶が溺死している
ずっと昔のことを思い出す
買ってもらったばかりの
ソフトビニール人形をバラバラにして似たような川に捨てた
殺してふたつにちぎった蝉も同じように捨てた
思えばあのころには
いつでもなにかの死体が転がっていた
一本ずつ順番に
足をちぎられた飛蝗
安いジュースの瓶に
詰め込まれて窒息した雨蛙
虫眼鏡で焼かれた蟻
たっぷりと塩を浴びせられ
火傷のように溶けた蛞蝓
巣を奪われた蓑虫
下手くそな標本にされて
結局腐った夏休みの証
爪のない蟷螂
芋虫みたいな蜻蛉
みんなみんな
黙って死んでいった
嬉々とした俺を見つめながら
いつでもなにかの死体が転がっていた
世界で最も意味のない死が
絨毯のように足元に降り積もっていた
気ちがいじみた夏の明かりの下で
幾つもの小さな生首が爪先を噛んでいた
嵐のせいで噎せかえる気圧に荒い息を吐きながら
記憶の中の
死体のプールに浸かる
もう
腐敗臭すらしない
ぐずぐず崩れる炭みたいな死体でいっぱいのプール
ねえ、もうそれは死じゃない、と
誰かが俺に話しかける
そうかもしれないしそうじゃないかもしれない
渇いたものはどんなものでも
薄い皮膚に淡い傷をつける
雨がひどくなると予報が出ている
雨の音に中に
沢山の羽音を聞く
ほら
おだやかな夏の怨霊たち
いつも彼らを呼び起こすのは
いったい誰なんだろう
沢山の死体の中で
アイスクリームをなめていた
幼なじみをその川に落としたら
どうなるだろうと何度か
考えたことがあった
大人になれたのは
きっと
奇跡みたいなものだったのだ






自由詩 あのときこそがきっと本当に夏だったのだ Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-09-01 22:09:44
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