メメントモリ
麦穂の海

「昨年の父の日には
おやじと蛍を見に行きました。
丁度、一年後の同じ日に、このように
いなくなった、おやじの偲ぶ会を開いている
なんてことは、夢にも思っていませんでした」

伯父さんと叔母さんと
なおちゃんと ようくん
おばあちゃん

喪服の肩の上を
緑色の冷光が舞う

おばあちゃんの左隣
ぽっかりあいた紫の夕暮れにも
小さな光が
ふわりふわり
漂っている


おじいちゃんの
愛娘のきゃしゃな踝の向こうから
小川のせせらぐのが聞こえ

澄んだ西の空は
ゆっくりと青みがかっていく

川の音も蚊柱も
ムッとする草のにおいも
あの日のままだというのに

みんながここにいない人のことを
考えている


からっぽになってしまった寝室のように
あなたがいなくなったら
わたしの胸もからっぽになってしまうだろうか

すぅすぅする空白に
耐えきれなくて

後悔をよすがに
枯れるほどなくのだろうか


愛猫がこの世から消えてしまうその日まで
同じファインダーをのぞき
シャッターを切ることで
カウントダウンに耐えていた
アラーキーのように

わたしも「死ぬこと」を
チラ見することで
今日いちにちを耐えている

le mardi 29 aout



自由詩 メメントモリ Copyright 麦穂の海 2011-08-30 23:54:33
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