常識人の君へ、逸脱者の私より。
相差 遠波

 狩りを楽しむテレビゲームの、獲物の部位を剥ぐ仕草を見て『怖い』と君は言う。
君の感覚は正しい。
君は優しい人だ。

 だけど狩人(わたし)を蔑ずんだ目で扱き下ろすのは、止めてくれないか。ホンモノの命を奪ったわけではないのだから。
『その行為が現実にやってみたい気持ちにさせる』といって、某通りで大量虐殺をした人間を引き合いにゲームで狩りを楽しむ人をすべて、虐殺者予備軍と思うのは止めてくれないか?
 それを楽しいと思う感覚がおかしいと言うのなら、世の漁師さんやバスフィッシャーはすべておかしいだろう。

 君が安売りで買ってきた牛肉の切り身は、オスに生まれたがために淘汰された乳牛の仔。
 鶏モモ肉百グラム98円は、卵を産まされつづけて疲れ果てた親鶏の慣れの果て。若鶏は雄だ。
 ちりめんじゃこなどあんなにたくさんの命のミイラだろう。
 これをグロテスクと思って無かったなら、君にゲーム狩人を蔑ずむ理由はない。
 またこれらの生産者がどれだけの率で、実際に人を殺したいと思うだろうか。

 食品生産者と違い、ゲーム狩人は実際に命を奪ってない。だからこそホンモノをやりたがる。と いうのなら、この流通のシステムがなければ、一般人だっていくらでも命を手に掛ける機会はあったはずだ。
 そうすれば命の尊さを知るだろう。まず君から活け魚を捌いてくれ。怖いだろう?そして面倒だろう?でも、美味いだろう?
 誰かが君の代わりに奪ってくれた命と比べて、どうだった?

 話を戻そうか。
狩りを楽しむテレビゲームの、獲物の部位を剥ぐ仕草を見て『怖い』と君は言う。血も流れてないし内臓が剥き出しになった訳でもない。ただ中腰になってナイフを逆手に上下する。ただそれだけでも『怖い』と君は言う。想像力豊かだね。そして、君の感覚は正しい。その感覚はとても大事だと思う。そして、君は優しい人だ。
 だけどゲーム狩人の全人口のうちどれだけが、実際の殺人衝動を持つというのだ?例の虐殺者だって、動機は快楽じゃなかった。周囲の無理解と蔑視に、さらに言うならキレイなものしか認めなかった家族への反発が、凶暴な殺戮衝動にかりたてた。彼は狩人ではなく手負いの獣だったんだよ。世間という狩人たちに追い詰められたね。

 もちろん、だからと言って人間ならば人を殺していいわけないし、それが言い分けになんてならないよ。他に方法はあったはずだし、辛抱だって足らなかった。同情には値しない。ただ部下がやった失態を詫びるような父親の会見にはちょっとだけ憐れみを感じたよ。正しいけど、冷たかった。親としての責任を感じているのではなく、息子を好きなように罰してくださいと切り捨てる。

 つまりなんだ。また脱線をしてしまったけど、ようは個人の性格と、間違った方向にいこうとしたとき、追い詰めるのではなく諌める周辺環境にあると思うんだ。原因はゲームだけじゃないよ。まったくゲームにはないとも言えないけど、君のように優しい友人がいるなら、冗談めかしてでも諌める友人がいるなら、大量虐殺は起こらない。
 も一つ言えば、まあ、私の知る限り大抵のゲーマーがそうなんだけど、殺すのが楽しくてこの狩りゲームやってる訳じゃないんだ。あの剥ぎの仕草だって、本当は要らないんだよ。
 釣りと似た感覚なんだ。釣りと違うのは、みんなで力を合わせて人の何倍も大きさのある獲物を狩るってところ。痛みこそ伴わないけど、蹴られたり踏まれたり跳ね飛ばされたり仲間に助けられたり。多分、みんなそれが楽しいのであって、バラバラ死体に興奮してるわけじゃない。

 一方で、本当にグロテスクで自分勝手な妄想を楽しむためのゲームもある。人を痛めつけることで快楽を得、人を道具のように扱って優越感を楽しむPCゲームだってある。だけどこれだって、未成年やそういったことを気持ち悪いと思う人の目には厳重に触れないよにして、需要のある人だけに供給されるようにすればいい。私自身は気持ち悪いと思うけど、それを排除するとなれば、決める立場の人以外の意見が反映されなくなるからだ。さっきの狩りゲームだって、決める人が残虐だと判断したら、仲間と力を合わせて目標を達成するという有益な面も含めて排除されてしまう。つまり大雑把に括って排斥するなって言いたいんだ。

 ともあれ、たといそんな特殊な趣味の人がいたとしても、実際にやってしまったらダメってことは、どれぐらいの割合かはちょっと計り知れないけど、分別がついていると思う。まれに分別がついてないひとがいて性質が悪いけど、その時は分別のついている同趣味の人が止めてくれれば・・・・なんとか?
 雨よ降るな!は通じない。私自身は認めがたいし『怖い』と思うけど、そういう欲求が起こってしまう人は居る。しかしその欲求が起こること自体は、それこそ悟りでも開かないと無くならないだろう。問題は、諌める人が居ないってことなんだろうと思う。曲がった芽を添え木もせずに、回りの芽ごと取り除いてしまうのでは、豊かな畑は望めないと思う。また間引きをするというなら、慎重に他の芽を傷つけないようにしないといけないだろう。そういう意味では、判断する機関が一箇所だけの、例の条例は大雑把すぎやしないだろうか?

 もう何度目かな。君の感覚は正しい。その感覚こそが、人の慈悲の根幹なのだと思う。大事にしてくれ。だけどもう一歩踏み込んで、蔑視は取り除いてくれないかな?君は優しい人だから、私の言いたい事は解ってくれると思う。
 そして君は私の友人で居てくれている。私も君の友情を失いたくない。だから理解して欲しいんだ。そして私の行動が逸脱し出したら、貶すのではなく諌めて欲しい。

 ところで、私のキャラクター貸すから、一度このゲームやってみないか?
 ウッカリな所に立っていて、仲間に天高く跳ね飛ばされるのもなかなか面白いモンだよw


散文(批評随筆小説等) 常識人の君へ、逸脱者の私より。 Copyright 相差 遠波 2011-08-30 12:03:06
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