白昼夢
麦穂の海

「もしかしたら、今は見えない
戦争状態じゃないのか?」

野営地で目を覚ますと
体中が汗ばんでいた

ジッパーをあけると
ナイロンの外は青空だった

すでに日は高く
肌を焼く太陽光に
二の腕の産毛が白く踊る

ガスマスクは外しているので
息苦しさはないが

この明るい
朝の外気が

無臭の猛毒をはらんでいることに
気づくと

いつもながら
腹の底がひんやりしてくる


Wi-Fi入りの古い液晶タブレットを開けると

メールが4通

1通はメーリスで
トウキョウのデモで昨日
2人が撃たれた
という情報だった

心臓をぎゅっと掴まれるような
鈍い感覚が広がる



「どこに自国民に銃を向ける国がある」

いや
ちがう

そうじゃない
分かったんじゃないか

そんな「国」なんてまやかしだったのだと

あの時
すべての発端となった

ここ
北の森で
神の火が爆発した
2011年だって


リビアでは自国のデモ隊を
自国の軍が空爆したのだ

あの時は遠い空の下の出来事だと
思っていた

そうだ
別に人間が違うわけじゃない

どこでだって
起こりうることだったのだ


「“国家”とは暴力を正当化できる装置のことである」


と言ってた学者の本を
もっとマジメに読んでおくんだった

それでも
デモで人がパクられて悲しんでいた頃が
懐かしい


確かに
あの頃から片鱗はあった

何もしていない参加者を
「ケーカン殴った」
とイチャモンつけて

サウンドカーの爆音に紛れて
つかまえて


「もう二度とデモには参加しません」
と念書を書かせた上

拘留期間ギリギリまで
代用監獄にブチ込んで

起訴できずに釈放

だなんて
それって普通に国家の犯罪だろ?


あの頃から必死に抵抗してたあいつ
カゲで彼女泣かしてデモばっかやってとか
言っててゴメン

今こうして
いろんなことがあからさまになってから
抵抗するのはかなりシンドイよ



北の森にbanksyが現れたというので
見に行くことにした

chim↑pomだという噂もある


googlemapはまだ生きている

企業もどこが味方なのか
いまだによく分からない


ガイガーカウンター
がビービー鳴り出して
皆がマスクを被りだす

対向車がすれ違う
もう見慣れたけど
運転席にマスクをつけた顔が見えると
ドキッとする

海岸線に巨大な壁が見えてくる
そこの下の方に

ホースで水をかける
黒い群集の
ステンシルがあった

無数の人

まるで壁に刻印された

亡霊みたいだ


その絵と平行して、猛スピードで
通り過ぎる


止まったらどうなるか
分からない

皆が窓ガラスにはりついて
その絵をみつめる

その奥で神の火はまだ燃えている


le samedi 27 aout 2011















自由詩 白昼夢 Copyright 麦穂の海 2011-08-27 19:18:42
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