W.K.第三回「二枚のカヴァーアルバムYO!HO!〜山崎さん、歌、お上手ですね」
たもつ
ということで、W.K.も回を重ねて三回目になります。前回、「好評につき」という枕詞をつけましたが、今回は「細々と続く」という枕詞に若干下方修正させていただきます。
それでは細々と続くW.K.の三回目になります。今回取り上げるのは、第二回のフィッシュマンズでも話題として取り上げた、2007年10月31日同時発売の山崎まさよしの二枚のカヴァーアルバム「COVER ALL YO!」(洋楽のカヴァー)と「COVER ALL HO!」(邦楽のカヴァー)です。
いきなり、やっちまった感がするチョイスですねー。いろんな方面に敵を作りそうなチョイスですねー。そもそも、カヴァーアルバムなどというキワモノ系のアルバムを語ることで、山崎まさよしの何を語れるというんでしょうねー、というところがあるんですが、トータルの山崎まさよしについてはいずれ語る機会を作るとして、そのための足掛かり的なもので、先ずは外堀を埋めるとか、急がば回れとか、千里の道も一歩からとか、猫の手も借りたいとか、まあ、そのような位置づけでこの二枚のアルバムについて語ることは、それなりに意義のあることかな、とか何とか。
少なくとも、徳永とかJUJUとかコブクロとかのカヴァーについて語っても、彼らもしくは彼女らについて何が語れるのか、という疑問はあるにせよ、山崎に近づこうと思ったら、やっぱりこの二枚は外せないよな、などと考える次第でありますYO!HO!などと書くと、今回は時々語尾にこれが付くんだろうな、ということが予見され、まあなんとも今からうざったい気が書いている自分でもしますヨホ。バージョンを変えて片仮名にしましたが、うぜえ感は残りますね。相変わらず本論が遠いですが、早速、もっさりと始めましょう。「COVER ALL YO!」「COVER ALL HO!」。
なんだかんだで毎度のことながらグズグズの文章ですので、レジュメを作りました。以下それにそって進行していきます。
1.山崎さん、歌、お上手ですね
2.でも、英語はあまり上手ではないんですね
3.山崎さん、音楽がお好きなんですね
4.おっと、山崎さん、手抜きはそこまでだ
5.で、結論として、評価はどうよ
1.山崎さん、歌、お上手ですね
そもそも山崎まさよしについての私個人の印象としては、声が良い、というか独特。歌唱力については、へたうまの部類。名曲も多いが、アルバムの捨て曲率も高い。そんな感じですよほ。平仮名だと溶け込んでよくわかりませんな。
独特な声は好き、嫌いにはっきり分かれそう。それと連動して、歌はうまいんだかへたなんだか、なんだかな、という感じ。歌唱力には疑問符がつくけれども、その独特な声によってつくられる歌の世界は好き、という人がいてもおかしくありません。私の場合、ここに当てはまります。
そしてアルバムを買う、もしくはレンタルして、はまる、あるいは、がっかり、という二択になっていくものと思われます。とにかく、捨て曲率は半端じゃないです。アルバムすべてを「One more time,One more chance」並みにしろ、とは言いませんが、変な曲、多すぎ?みないな?見たいか?なら見れば?と。
で、自分もこちらの方向に流れ着いて、何枚か買って、レンタルもしましたが、ほとんど放置状態で聴きこんだことはありませんでした。転機となったのは、やはりウォークマンを買ったのがきっかけで、家にあるまさやん、と、友達でもないのにフレンドリーに呼びますが、のCDを落とし込んで、他に聴くものもあまりなかったのでヘビロテかけてました。そうしたら、結構、これがはまってしまって、捨て曲だと思っていた「変な曲」にもなかなか味を感じました。さらに追い打ちをかけたのが偶然見たライブ映像で、いわゆる捨て曲だと思っていたアルバム「HOME」の「Fat Mama」が流れてたんですね。それを見て初めて、ああこの曲、かっこいいんだ、ということを実感しました。詞が変なのはしょうがないにしても。山ちゃんのたたずまいや唇の動きがなんとも色っぽくってかっこいいのです。さらにさらに、Youtubeにアップされていた「飾りじゃないのよ涙は」を聴いて、痺れちゃってねー、もう、兄貴、ついていきます、みたいな、そのような。私の方が年上ですが。
そもそもね、まさやんの歌が難しすぎるんですよ。頑張って「One more time,One more chance」歌って、スナックのおねえさんに、かっこいい、といわれるくらいにはなりましたが、それでもサビとサビの間の「ららららんららん、らららららーらららー、ららららんらららーん、ららららーん(歌詞とか書くと面倒くさいのでメロディーだけでご勘弁)」のところは超高音で歌いきれません。その他の曲も、良いメロディーだなと思っても、微妙に揺らぐので、小刻みに音程を調整していくのが、指南の技です。いえ、別に私は指南ではないので至難の業といった方が正確なんですけどね。
で、それはそれとして、この二枚のアルバム、YO!もHO!も山崎まさよしの歌唱力が十二分に堪能できます。へたうまな振りして、実は、お上手だったんですね、と。
歌は直球勝負。格好いいです。こうして聴くと、本当に伸びのある良い声です。悪く言えば、どの曲も、一部を除けばほとんど同じ歌い方で、一本調子と言えなくもないのですが、それを差し引いても、良い声です。
それは、そのように歌える歌を選曲したからであり、さらに突っ込んで言えば、へたうまに聴こえるのは自分で作った歌自体が、自分で歌うのすら難しい曲ばかりであるから、ということだと思われます。
したがって自分だけが扱える高度な技術(?)を駆使して歌いあげる、という何とも、皮肉な話があり、それがマニアにすればたまらないところなんでしょう。多分、ですけど。
2. でも、英語はあまり上手ではないんですね
洋楽カヴァーの「COVER ALL YO!」を聴くと、ああ、この人は英語のネイティブスピーカーでもないし、その訓練を受けたわけでもないんだな、という気がします。いわゆるジャパニーズ・イングリッシュとでもいうんでしょうか。もちろん、生い立ちなどはわかりませんので、外国に住んでいたり、英会話の駅前留学に通ったり、そんなこともあったのかもしれませんが、少なくとも、このアルバムからはそういったものは感じられません。
学生が英語の教科書を音読しているような、日本人の耳には、非常に分かりやすい発音の仕方です。そのくせ、難しいところは、ごまかしているような、そんな印象を受けます。おそらく、洋楽マニアに洋楽のカヴァーだよ、と言って自慢して聴かせたら、怒られるか笑われるレベルです。
だからと言って、そこを責めるのも酷というもので、日本語式の発声で歌っている限りは、英語もそれに準じてしまうのは仕方のないことだとも思われます。むしろ、俺は英語得意なんだぜ、みたいな感じでそれっぽく歌うような痛さがなく、むしろ清々しさすら感じられます。自分の声、歌い方の魅力を最大限に生かすためにそのような発音をチョイスしたとも言えそうです。
3.山崎さん、音楽がお好きなんですね
プロに対して言うのも変な話なんですが、本当にこの人は音楽が好きなんだな、っていうのが選曲からもわかります。HO!の選曲をみると、ビッグヒット、というのはあまりありません。少なくともレコード大賞になったりとか、その年を代表するような曲、というのは皆無のようです。
そのような派手派手な曲ではなく、好きな邦楽ランキングや泣ける歌ランキング等で上位にあるような、日本人に長く愛されている曲(プリプリの「M」や松田聖子の「SWEET MEMORIES」等)、あるいはあまり知られていない隠れた名曲(フィッシュマンズ「いかれたBaby」等)、J-POP史の中に埋もれてしまいそうな名曲(マッチや真島が歌った「アンダルシアに憧れて」等)でアルバムは構成されています。
ビッグヒットではない、というところには多少の違和感を覚える方もいるかもしれません。あくまでも私の主観的なイメージです。つまるところ、同じ松田聖子の泣ける系でも「赤いスイートピー」ではなく「SWEET MEMORIES」であり、ヒット曲メーカーの桑田からあえて選んだのが「月」である、そのようなところがミソ、ということを言いたい、という感じでyoho。
YO!についても同じことが言えます。ヒット曲をそろえながらも、うん、そこか、みたいな。マドンナではなくシンディー・ローパーだったり、ビリー・ジョエルではなくエルトン・ジョンだったり、スティービー・ワンダーからのチョイスが「Superstition」だったり、数あるビートルズ・ナンバからのチョイスが「All My Loving」だったり。
これらの曲に様々なアレンジが加えられて、「お客さん」に提供されています。二枚のアルバムのジャケットでは、山崎まさよしが料理人やコックの格好をしています。楽曲のタイトルには「Just The Two Of US 〜サルサソース仕立て」、「ケンとメリー 愛と風のように 〜料理長のお任せ仕込み」のように、副題がつけられ、メニューのようになっています。まさに聴く方はフルコースの料理を提供される「お客さん」です。これでドヤ顔されても困りますが、このような遊び心は嫌いではありません。
話は戻りますが、本当に山崎まさよしという人は音楽が好きなんでしょうね。目をキラキラさせて音楽を聴いて、好きなように楽器をいじっていた音楽少年がそのまま大人になったような。音楽と触れ合えることの喜びや、音楽に対する敬意が、ジャケットや選曲や曲順や歌声から伝わってきます。
4.おっと、山崎さん、手抜きはそこまでだ
さて、この二枚のアルバムについては、音楽を楽しみながら作っていると先述したばかりですが、その中において、山崎さん、これはいかがなものですか、と思われる仕事がいくつかあり、それがこのアルバムの評価を微妙なものにしています。
先ずは、HO!の「SWEET MEMORIES」。伴奏なし、コーラスをバックに山崎まさよしがアカペラで歌いますが、コーラスとメインヴォーカルが微妙にずれている感じです。わざとずらそうとして、失敗してしまった、みたいな。山崎まさよしの音程も微妙にはずれているような。申し訳ありませんが、この曲は飛ばしてます。プロとしてこの仕事はどうなのよ、と。
次は同じくHO!の「あなたに会えてよかった」。ちょっと音づくりがチープ過ぎますよ、山崎さん。この伴奏はピアニカですか?ピアニカが悪い楽器だとは言いませんが、なんかチープですよ。でも飛ばさないのは、まだ聴けるレベルだからです。
最後にYO!の「All My Loving〜シェフの家ごはん」。「シェフの家ごはん」って言うくらいだから、ギターの弾き語りで良いのに、何かわけのわからない音が入ってるし、何より、ピチャピチャ、という拍手、というより行儀悪く音を立ててものを食べるときのような音が嫌です。
ギターの弾き語りはエルトン・ジョンでやっちゃったから仕方ないにしても、他にやりようがあるような。確かに「シェフの家ごはん」だから、まかない飯みたいなもので十分なんですけど、あまり美味しそうではありませんでした。それでも、本人が楽しそう(美味しそう)にしてるのが救いといえば救いかも。
楽しみながら作るのは良いけど、自分の楽曲ならこんなことはしないでしょ、というのが以上の三曲。いろいろとお考えや趣味嗜好があるのはいたしかたないにしても、「SWEET MEMORIES」は一発どりですか、というほどに洗練されてません。
5.で、結論として、評価はどうよ
英語の発音の問題や、疑問符のつく仕事が見られたり、突っ込みどころはあるものの、私としてはこの二枚のアルバムはお勧めです。ただし、限定的なお勧めになります。
先ず、YO!に関しては、洋楽マニアにはお勧めできません。おそらく聴く前から、「素晴らしい原曲があるのに、何で我慢して劣化コピーを聴かなければいけないのか」と怒られるのが目に見えてます。スティービー・ワンダーの「Superstition」なんて、ものすごく格好良いアレンジで仕上がってるんですけどね。洋楽は好き、でもマニアってほどでもないし、有名な人と曲しか知らん、って人にはお勧め。しつこいようですが、まさやんが格好良いし、この曲いいな、という発見もあるだろうし。実際、私はこのアルバムでスティングの「Englishman In NewYork」を知り、非常に気に入りました。
次にHO!です。原曲や原曲を歌っている人に思い入れのある方で、けっ、山崎、という人は確実に避けてください。特に鬼門はマニアからの支持が高そうな「M」と「いかれたBaby」。
こんなアレンジや歌い方じゃ、原曲が台無し、と感じる方がいてもおかしくありません。私は好きですけど。特に「M」のブルース風のアレンジはいかしているし、「いかれたBaby」は強すぎて原曲の温かさが無いような気もしますが、これはこれでありかな、とか。あと、RCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」も清志郎のサルまねかよ、とファンの方には不評かも。
間違いなくお勧めできる方は、私と同じように山崎まさよしの声は好きだし、良い曲もあるよね、というライトな山崎まさよしファン。何より、捨て曲がありませんから。その声を十分に堪能できます。
コアなファンには物足りないかも。でも、山崎まさよしを語るには良くも悪くも避けて通れないアルバムだと言っても良いでしょう。そういう意味で資料的な価値は十分にあると思います。
まあ、カヴァーアルバムです。原曲を歌っている人の思いも、それに対するファンの思いも超えることはできないし、もしカヴァーしている本人が、超えた、と思ったらそれは傲慢だし、きっと歌に表れて鼻につくでしょう。でも、カヴァーしている人間が謙虚にその歌と向き合い、その上で新しい世界観を創造する、というところに立てば、それはやはり気持ちの良い空間が出来上がると思われます。
カヴァーというものが、ジャンルとして認められるのであれば、この二枚のカヴァーアルバムは間違いなくレベルが高いです。何より、音楽に対する愛情と敬意にあふれています。
W.K.の第二回でも書きましたが、私はこのアルバムでフィッシュマンズの「いかれたBaby」という素晴らしい楽曲と出会えることができました。最後にこの「いかれたBaby」に添えられた副題とともに、第三回を終わりにしようと思います。
「いかれたBaby 〜音楽の恵みをこの曲に」