祝祭のひと
恋月 ぴの
あっ
風の軋む音がします
※
母となれなかった女の子供が母となる
子を宿せば母になれる
そんな容易いものではなくて
幼子の抱く古びた操り人形のように
いつのまに欠けてしまった夫婦茶碗に唇を添え
口ずさむ子守唄は儚くも哀しい
金魚すくい
セルロイドの風車
きつねのお面はコンと鳴き
わたしの頬にひっついた女のあたたかくも艶やかな唇
※
父親は誰なのか
あのひとだよと教えられてきたはずなのに
夕焼けこやけで橋の下
長くのびた影法師にまぎれ
どこか遠くへ行ってしまいたかった
このまま、わたしが消えていなくなったとしても
誰も悲しんでくれなくて
女の唇は紅よりも紅く濡れそぼり
※
金だらいのなかで泳ぐ金魚
鼻筋に塗った水白粉
豆絞りで飾った髪にかんざし一輪
わけもなく嬉しくて山車の後ろを付きまとい
切れた鼻緒にべそかけば
お嬢ちゃんの家まで送ってあげるからと
見知らぬおじさんがわたしの肩を優しく抱いて
鎮守の森の暗がりは
幼い心を弄ぶ
※
あっ
風の軋む音がします