祝祭のひと
恋月 ぴの

あっ
   風の軋む音がします




母となれなかった女の子供が母となる

子を宿せば母になれる
そんな容易いものではなくて

幼子の抱く古びた操り人形のように
いつのまに欠けてしまった夫婦茶碗に唇を添え

口ずさむ子守唄は儚くも哀しい

金魚すくい
セルロイドの風車
きつねのお面はコンと鳴き
わたしの頬にひっついた女のあたたかくも艶やかな唇




父親は誰なのか

あのひとだよと教えられてきたはずなのに

夕焼けこやけで橋の下

長くのびた影法師にまぎれ
どこか遠くへ行ってしまいたかった

このまま、わたしが消えていなくなったとしても
誰も悲しんでくれなくて

女の唇は紅よりも紅く濡れそぼり




金だらいのなかで泳ぐ金魚

鼻筋に塗った水白粉

豆絞りで飾った髪にかんざし一輪
わけもなく嬉しくて山車の後ろを付きまとい

切れた鼻緒にべそかけば

お嬢ちゃんの家まで送ってあげるからと
見知らぬおじさんがわたしの肩を優しく抱いて

鎮守の森の暗がりは

幼い心を弄ぶ




あっ
   風の軋む音がします







自由詩 祝祭のひと Copyright 恋月 ぴの 2011-08-22 19:08:39縦
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